指輪を外したら、さようなら。

 あきらの悩みに比べると、私の悩みなんてばかばかしく思えた。ようは、別れてしまえばいい。

 私は立ち上がり、冷蔵庫から缶を二本出した。

 飲み始めて一時間で、私は五本目、あきらは四本目だった。

「――に会った」と言って、ポテトチップスを口に入れた。

 バリバリと音を立てて噛む。

「え?」

「奥さんに会ったの」

 あきらが二、三度素早く瞬きをした。

「マジで――?」

「マジで」

 その表情から、あきらがどんな修羅場を想像しているのか、カウンセラーじゃなくてもわかった。

「私に会いに来たわけじゃないよ? 会社に来た時に、たまたま私が取り次いだの」

「いやいや。だからいいってわけじゃないでしょ」

「まぁ……。そうなんだけど?」と言って、私はチーズの箱を開けた。

 今日は何も食べていなかったから、いくらでも食べられそうだった。

「千尋の相手って、別居して長いって言ってなかったっけ?」

「うん。もう一年半は別居してるけど、奥さんが離婚に応じないみたい」

「それって、千尋が原因で離婚しようとしてるの?」

「違う、違う。付き合う前から別居してて、奥さんが離婚してくれないって弱ってるところにつけ込んだ感じ?」

「つけ込んだ……って、千尋から誘ったの?」

「そういうことになるかな」

 バッグの中で、スマホが唸ったのがわかった。比呂かもしれない。スーパーであきらを待つ間、どこにいるかとメッセが届いていた。返事はしていない。

「千尋って、どうして不倫ばっか? 結婚に興味なくたって、結婚してない男と付き合えないわけじゃないでしょ」

「んー……」

 私の不倫を知ってからも、あきらからそのことについて聞かれたことはなかった。あきら相手に誤魔化したいことでもない。全部を話すつもりもないけれど。

「私さ、弱ってる男に弱いんだよね。家庭が上手くいってなくて、弱ってる男を見ると、つい慰めたくなっちゃうんだよねぇ。で、私と寝た後に、吹っ切れた顔をされると、満足なのよ。なんか……いいことをした気分?」

「……」

 理解できない、とあきらの表情が訴えていた。

 当然だ。

 普通の感覚なら、嫌悪すべき行為。

「千尋って、ダメ男が好きなの?」

「あーーー、うん。そうかも。私自身もダメダメだからかね。汚れてるから、真っ当な男とは付き合えないのかも」

 言葉にすると、なんだか滑稽で、笑えた。



 結局、汚れ切った私には、不倫なんて汚れた行為がお似合いだってことよ……。



「私たちみんな、変な恋愛ばっかだね」

「え?」

「私は不倫ばっか。あきらは恋人がいない時はセフレなんて言ってるけど、セフレ以上の恋人がいたことがない。麻衣は巨乳好きの変態や、コスプレ好きの変態ばっかに好かれてるし。まともなのはさなえだけ」

「……確かに」

 二人で笑って、飲んで、それから、ため息をついた。なんだか、惨めで。
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