指輪を外したら、さようなら。
比呂は、私とは違うから。
似ているのは名前だけ。
「あきらは? 飲み会に来るってことは、あきらにも龍也にも恋人がいないってこと?」
「うん」
あきらはOLCの仲間の一人、龍也とセフレの関係にある。
龍也がどう思っているかはわからないけれど、あきらは『セフレ』だと言っている。
それは、お互いに恋人がいない時だけの関係で、どちらかに恋人がいる間は『他人』なんだそう。
OLCの飲み会にも、来ない。
前回は、あきらに恋人がいた。その時の龍也には、恋人はいなかった。
「龍也、しばらく彼女いないよね」
「合コンとかには行ってるみたいだけどね」と、あきらが少し寂しそうに言った。
「龍也と落ち着いちゃえば?」
「それこそやめてよ」
「どうして? 龍也に拒否られたこと、あるの?」と言いながら、私はレタスを口に入れた。
「だから、私たちはそんな関係じゃないって。気が合って、都合がいいだけ」と言いながら、あきらもレタスを噛んだ。
「龍也ってそんなに器用なタイプだっけ?」
「同時進行してるわけじゃないし、楽じゃない? 恋愛は若い子として、隙間を私で埋めるだけでしょ」
「本気で思ってる?」と、私はフォークの先をあきらに向けて、ジロリと睨んだ。
龍也はあきらが好きなのだ。少なくとも、大学の頃はそうだった。
けれど、その頃のあきらには高校時代からの彼氏がいて、龍也もあきらへの想いを吹っ切るように彼女を作った。
私の見る限り、龍也は今でもあきらが好き。
以前好きだった人とセックスしていながら、恋愛感情を思い出さないなんてこと、あるはずがない。
「あきらとそういう関係になってから、龍也が誰と付き合っても長続きしないの、気づいてないわけじゃないでしょ」
「私のせいじゃないわよ」
「そう? あきらがフリーの時、龍也に彼女がいること、あったっけ?」
あきらが言葉に詰まった時、店員が料理を運んできた。私の前にシーフードグラタンとパン、あきらの前にビーフシチューとパンを置く。
ごゆっくりお召し上がりください、と一礼して、会計伝票をテーブルに置くと、店員は足早に去って行った。
十二時を過ぎて、店内が混みあってきたのだ。
私はシーフードグラタンをスプーンですくい、息を吹きかけた。
「龍也が彼女と長続きしないの、私のせいかな」と、あきらが呟いた。
「龍也自身が自覚してるかは、わからないけどね」
「私ももう……潮時かな」と、あきらは無理が見え見えの笑顔で言った。
あきらもまた龍也が好きなのに、決して認めようとはしない。
理由は、わかっている。
わかっているから、ツラい。
二人は大切な仲間だから幸せになってもらいたい。
けれど、あきらの心の痛みもわかるから、無責任なことは言えない。
「龍也が納得する?」
「納得も何も……」
「龍也、泣かさないでよね」と、私は龍也の姉か何かになった口ぶりで言った。
「どうして龍也が泣くの!?」
「じゃあ、あきらが泣くの?」
あきらは泣いたりしない。
きっと、どんなに泣きたくても、あきら自身がそれを許さないだろう。
気持ちは、わかる。
「仕事、頑張ろ」と、私は呟いた。
「うん」
あきらが、笑って頷いた。