指輪を外したら、さようなら。

 声が震えているだけじゃない。麻衣の大きな瞳からは、今にも涙がこぼれそうだ。

 大学時代から、麻衣を一番気にかけて大事にしてきたのは、陸。麻衣も陸を頼っていた。二人がくっつくんじゃないかと思ったくらい、中が良かったし信頼し合っていた。

 きっと、この中の誰よりも、陸の離婚とイギリス行きにショックを受けている。

「すぐってわけじゃない。来年の秋くらいになると思う」

「そっか……。きっと、すごい、ことなんだよね?」

「ああ。イギリス(向こう)での勤務経験があれば、何年かして日本に戻った時には総支配人に昇格できる」

 あきらが麻衣にハンカチを差し出す。麻衣はそれを受け取って、涙を拭った。

「おめでとう、陸」

「サンキュ、麻衣」

「おめでとう、でいいのか? 離婚はめでたくないだろ」と、大和がボリボリと頭を掻く。

「陸さんが吹っ切れてるなら、いいんじゃないですか」

「そうよ! おめでとう、だよ」

「そうか。陸がそれでいいなら、いいけどよ」

「いーんだよ」

 陸の表情に迷いはなく、気持ちは前向きのようだ。

 私が慰めてきた男たちも、私を抱いた後でこんな表情をしていた。

 私が、自分の行いを正当化できる、一瞬。

 私は勢いよく立ち上がり、グラスを持ち上げた。

「じゃ、陸の前途を願って、もっかいかんぱーい!」

「かんぱーい!!」

 みんなもつられてグラスを掲げる。

「結婚する予定とかあるなら、俺が行く前に式を挙げてくれよ。イギリスから帰ってくんのは大変だからな」

「そうだよな! ってか、予定ある奴いんのか?」と、大和さん。

「麻衣じゃない?」と、私は何の気なしに言った。

「あ、年下だから、結婚はまだ早い?」

 私の言葉で一斉に視線を向けられた麻衣は、恥ずかしそうに視線を泳がせる。

「麻衣に彼氏?」

 呟いた陸の声が、あまりに冷ややかで驚いた。陸の、麻衣への心配性は半端ない。

「そう! 前に話してた後輩くんと付き合い始めたんだって」と、私はわざとテンション高めに言った。

「え、そいつ、まともなのか?」

「まともそうでしたよ?」と、龍也が答えた。

「俺、偶然会ったことがあるんですけど、すげー好青年な感じで、麻衣さんのことダイスキー! ってオーラ出まくりでした。そう、言ってたし」

 龍也は飲むと、テンションが上がる。まぁ、大抵の人はそうだろうが、龍也の場合は言葉遣いがチャラくなる。

「な? あきら」

「え? あ、うん」

 気まずいあきらも、挙動不審。

「なに、あきらも会ったことあんのか?」

「一緒にいる時に会ったんで」

「へぇ。お前ら、二人で会ったりしてんの?」

 大和の問いに、あきらは動揺を隠せない。

 そりゃ、そうだ。

 酔った龍也がうっかり二人の関係をばらす可能性が、ないわけではない。

 もう、いっそのことばらしてしまえば楽だろうに。

「たまたま駅で会って、あきらのパソコン選びに付き合ったんす」

「龍也、そういうの詳しいもんな」

「あい」

 ヒック、と龍也がしゃっくりをし始める。

「龍也、もう酔ったのか?」

「あー……、すんませ――。ちょっと……寝不足で……」

「お! 龍也、女デキた?」
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