指輪を外したら、さようなら。
麻衣があきらの顔を覗き込む。
「それに、恋愛と結婚は違うからね」
「そうだな。それで失敗した例がここにいるし、じっくり考えろ。週末に会うだけなら、お互いに格好つけていられても、一緒に暮らすとなるとそうはいかないからな」
陸の言葉に、部屋の空気が冷える。酔いも醒めそうだ。
内容が内容だけに、流しずらい。
「経験者の言葉、重すぎるよー」と、麻衣がちょっとおどけて言った。
「ありがたいだろ?」と、陸がケラケラと笑う。
「ありがたくないよ!」
「そうよ。あきらが益々尻込みしたら、陸のせいだかんね」
「知るかよ! つーか、千尋と麻衣はどうなんだよ! いくらイギリスに行く前に結婚しろとは言っても、三人立て続けはきついぞ」
「確かに! うちは子供も増えるし、ご祝儀貧乏とかなりたくないぞ」と、大和。
「ああ。私はないない! ってか、そろそろ別れるし」
「はあっ!? なんで? お肌艶々効果がキレたか?」
「なんでよ! 私は前からお肌艶々です!!」
「じゃあ、なんでだよ?」
「もともとそんな真剣な付き合いじゃなかったのよ。私はあきらと違って、『いい男だなー』ってくらいの気持ちでヤレちゃう女なんで」
私にしては珍しく自虐的なことを言ってしまった。
けれど、私に普通の恋愛、普通の結婚が出来ない以上、そんなフザけた女だと思われている方が都合がいい。
「……素直じゃないのはどっちよ」
ずっと黙っていたあきらが、言った。私を睨みつけて。
「地球滅亡の瞬間、千尋が一緒に居たいのは誰?」
「え――」
「酔い潰れて名前を呼んじゃうくらい好きなくせに認めようとしないのは、千尋じゃない」
私が、いつ、比呂の名前を――。
思い当たるのは、比呂の奥さんが訪ねてきた後、あきらの部屋で飲んだ時しかない。缶ビール四本程度で寝てしまった。
「聞き間違いじゃない?」
私はバカにするように鼻で笑った。
「っていうか、自分が素直になれないことに、私を巻き込まないでよ」
「千尋が自分のことを棚に上げて偉そうに――」
「ストップ! もうやめて!!」
麻衣の制止、ハッとした。
あきらも。
「何をムキになって張り合ってんのよ! あきらと千尋は相手も事情も違うんだし、どっちが悪いとか偉いとかないよ」
いつもほわーっとしている麻衣だけれど、急にしっかり者になったりする。そういう時、誰も何も言えなくなる。
「大事なのは後悔しないことでしょ? 龍也の気持ちは報われて欲しいけど、あきらが無理しても幸せじゃないんだし、千尋もそうだよ。『いい男だな』って気持ちは立派な好意だよ。誰彼構わないみたいな言い方しないで!」
自分のことでもないのに、涙ぐんで力説する麻衣を見ていたら、胸が熱くなった。
こんな私のことで、こんなにムキになってくれるなんて、嬉しすぎる。
そう思ったら、素直に言葉が出た。
「ごめん」
「ごめん」
それはあきらも同じだったようで、言葉がハモる。
「後悔しないこと、か」と、陸が呟く。
「確かにな」
「だな」と、大和。
「じゃあ、地球滅亡の時に麻衣が一緒に居たいのは?」
「え?」
「龍也はあきら、あきらは保留で、千尋は恋人、麻衣は?」
急に矛先が自分に向いて、麻衣が考え込む。