指輪を外したら、さようなら。
「年下彼氏?」と、陸が聞く。

「正直に言っていい?」

「ん」

「私は、みんなといたい」

「彼氏は?」

「あ! もちろん彼のことも考えたよ? けど、んー、まだ付き合いも短いし、そこまでは……っていうか、真っ先に浮かんだのはみんなだったっていうか……」

「麻衣って、夢見がちかと思えば、実は誰よりも現実主義だよね」

 だから、ダメ男に引っ掛かるのが不思議だった。

 いや、ある意味当然か。

 ダメ男に甘えられて、自分が支えてあげなきゃ、みたいな母性本能を刺激されるのかもしれない。

「鶴本くん、もっと頑張んなきゃ、だな」と、龍也。

「ま、俺もだけど」

 龍也に見つめられ、あきらがフイッと麻衣に視線を逃がす。



 まったく、中学生の初恋か。



「陸は?」と、聞いた。

「大和とさなえは聞かなくてもわかってるし。陸は?」

「俺は――麻衣」

 大口を開けてトマトとアボガドのブルスケッタを食べる麻衣に、みんなの視線が集まる。

「ん?」

「俺は、麻衣といる」

「ふへっ!?」

 麻衣が両手で口を押えて、鼻から音を発した。

「みーんな相手がいるからな。麻衣が寂しくないように、俺が一緒に居てやるよ」

「はにっ、ふへはら――」

「何言ってんのか、わかんねー」

 陸が大笑いする。

 麻衣が頬を歪ませてブルスケッタを噛む。

「なに、上から目線で言ってんの! 私は寂しくなんか――」

「――俺は寂しいよ」と言ってビールを飲み干し、手を伸ばして私の前にあるボタンを押す。

「だから、一緒に居よう」

 全く、なんて忘年会だ。

 暴露大会か、告白ゲームか、とにかく、盛り上がったような気まずくなったような、複雑な雰囲気。

 とにかく、酒の量だけは、三次会まで行ったくらい飲んだ。

 三時間後。

 お開きと言う時に誰かが言った。

「あ、ウ○ン忘れた」

 全員、明日の二日酔いは確定だ。

 本当に、こんなに飲んだのはいつ振りかと思うくらい、飲んだ。正確には、飲まれた。

 店を出ようと席を立った瞬間、一気に酔いが回ってフラついた。

「俺、千尋ん家知らねーぞ?」

「私、送ってくよ」

「いや、麻衣じゃタクシーから降ろせないだろ。俺も――」

「あ、スマホ、千尋のじゃない?」

「だな。彼氏か? 言ったら迎えにくんじゃね?」

 会話は理解できるのに、誰の声だかわからない。

「彼氏なんて……いないわ……よ」

「さすがに男が出るのはマズくないか?」

「あ、じゃあ、私――」

「おい、千尋! ここで寝んなよ。ったく、珍しーな、意識跳ぶほど飲むなんて」

「えっと、初めまして。私、千尋の友達なんですけど、千尋、飲み過ぎちゃって――。はい。お願いします。場所は――」

 比呂に迎えに来てもらうなんて、ダメ。

 そう思うのに、身体は重いし、いや、軽すぎ? ふわふわする。頭がボーっとして、言葉が出ない。

 ただ、マズい、のはわかる。



 だって、比呂の手には――。



『地球滅亡の瞬間、千尋が一緒に居たいのは誰?』

 あきらの声が聞こえる。

 瞼の裏に、比呂が見える。

「比呂……」

 翌日。

 私の身体はボロボロだった。
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