指輪を外したら、さようなら。

*****


「あれ? まだ二人だけか?」

 大和が言った。隣には、さなえ。

 私はさなえから二人分の会費、二万円を受け取り、封筒に入れた。

「忘年会は会費なしでできそうか?」

「よっぽど高い店にしなきゃ、大丈夫だろ」と、陸が言った。

「次はあきらか?」

「そ」

「じゃ、龍也だな」

「だね」

 あきらと龍也の関係は誰も知らないけれど、龍也があきらを好きだったことはみんな知っていて、知らないのはあきら本人だけ。

 今の龍也の気持ちはどうであれ、あきらが幹事の時は龍也をペアにする。

 あきらはどうしていつも龍也とセットなのかと文句を言うけれど、たまにしか来ないあきらに拒否権はない。

大斗(だいと)くんは元気?」

 私は隣に座ったさなえに聞いた。

「うん。今ちょっと風邪気味だから、寝るときぐずるようなら早めに帰るかも」

「最近、寒いもんね」

 大斗くんは大和とさなえの息子で、二歳。

 半年くらい前に会った時は、人見知り全開で大泣きされてしまった。

 大学時代のさなえは、一歳年下とは思えないほど幼くて、天然で、その危なっかしさからサークル内ではお嬢様のような存在だった。

 見た目も、腰まであるふわふわの栗色の髪に、白やピンクの服を着て、そこにいるだけで癒された。同年代の同性からは『ブッてる』とか『男受けを狙ってる』とか言われてツラい時期もあったようだけれど、少なくとも私と麻衣とあきらは、さなえが可愛くて堪らなかった。

 だから、さなえが大和を好きだと知って応援したし、二人が付き合いだした時は嬉しかった。

 そのさなえも現在(いま)は一児の母で、大和の実家の設計事務所の手伝いもしている。

 ネイルと靴が好きで、昔のさなえのアパートの一室は全て服と靴で埋まっていた。

 だから、ネイルどころか短い爪に、Tシャツとジーンズ、スニーカーで自転車に乗っている姿を見た時には、本当に驚いた。

 さなえがここまで変わるとは。

 今日も、脇くらいまでの長さの髪はシュシュで束ねているだけで、化粧も最低限。元の素材がいいからそれでも可愛いのだけれど、もっと睫毛を上げれば目がパッチリして、ほんのりリップを塗るだけでふっくらした唇が更に美味しそうになるのに、と思う。

 服装も、ネイビーの開襟シャツにジーンズ。昔のさなえなら、間違いなくスカートを穿いていた。

「あ! 麻衣ちゃん」

 相変わらず高くて甘いさなえの声に顔を上げると、麻衣が入ってきたところだった。さなえの声に気が付いて、店員の案内を断った。

「龍也とあきらはまだ?」

「ああ」と、陸が答える。

「今日、寒いね」

 麻衣はジャケットをハンガーに掛け、壁のフックに引っ掛けた。

「麻衣ちゃん、先週は大斗がごめんね」と、さなえが言った。

「ううん、大丈夫だよ」と言いながら、麻衣が会費を私に差し出した。

「ん? 大斗?」と、大和。

「ほら! 勝手に私のスマホ弄って、麻衣ちゃんに電話しちゃったって言ったじゃない」

「ああ、言ってたな」

「大斗くんがスマホ弄るの?」と、私は麻衣の会費を封筒に入れながら、聞いた。

「そうなんだよ。動画見たくて」

「今時の二歳児って、みんなそうなの?」と聞きながら、麻衣がさなえの隣に座った。

「うちはあんまり見せないようにしてたんだけどさ」と、大和がため息交じりに言った。

「あ、また私のせいにしようとしてる」と、さなえが少しムッとして言った。

「大和だって――」
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