指輪を外したら、さようなら。



 亘と因縁の再会をして一か月。

 毎年のことだが、工場が休みに入る前に発注しようと、打ち合わせが立て込み、クリスマスどころではなく、慌ただしくお正月休みに入った。

 再会の翌週、月曜日には本契約を交わし、今後の流れを説明した。その場には、瑠莉さんも同席していた。

 水曜日に一回目の打ち合わせがあったが、比呂と金城くんが出向いた。まだ、私の出番ではない。

 帰って来た比呂は不機嫌で、その理由を金城くんが教えてくれた。

「大河内さんて相川さんの同級生なんですよね? 元カレかなんかですか? 婚約者が席を外した時、相川さんの話をしだして、なんか、すっげぇ……遊んでる……みたいなこと言ってて。相川さんは年下も既婚者も関係なく手当たり次第だから、気をつけろとか言われて……。あ! 俺はそんなこと信じないですよ? 主任も、大河内さんが昔相川さんに振られでもして、腹いせにでたらめ言ってるんだろうって言ってましたし」

 予想はしていた。

 だから、比呂にもそれは言ってあった。

 比呂からその話はされなかった。

 二回目の打ち合わせはその一週間後。

 年末の挨拶を兼ねていたから、比呂と私と長谷部課長も同行した。

 この時も瑠莉さんが同席していたし、課長が一緒だったこともあって、亘は何も言わなかった。ただ、気色悪い笑みを浮かべて、私をじっと見ていただけ。

「相川。有川の言う通り、絶対にあいつと二人きりになるなよ」と、打ち合わせの帰りに課長に言われた。

「ありゃ、相当危ないだろ」

 年が明け、三回目の打ち合わせも比呂と金城くんが出向いた。一回目同様に私のことを色々と言っていたようだが、やはり比呂は何も言わなかった。

 そして、四回目の打ち合わせ。

 瑠莉さんがインテリアのカタログを見ながら考えたいと言うので、私も同行した。

 比呂と金城くんは図面を見ながら、配線関係の話をしていた。電気関係については工事部門の担当がいるのだが、インフルエンザで一昨日から休んでいた。だから、今日は希望を聞いて、後日担当者に伝えることになっている。

 私と瑠莉さんは窓際でカタログを広げていた。

 二時間ほど経過して、私は瑠莉さんに誘われて、ホテル内のカフェで休憩を取った。

 瑠莉さんは亘の本性など全く気付いていなくて、高校時代の亘の話を聞きたがった。私は、当たり障りのない、瑠莉さんが喜びそうに大袈裟に亘を美化した話をした。

 休憩なのに、すごく疲れた。

 部屋に戻る途中、瑠莉さんのスマホが鳴り、私は先に戻った。ドアを開けた瞬間、空気の悪さに気づく。

 こちらも休憩していたのか、三人は図面を脇に寄せ、コーヒーを前にしていた。あの、愛人らしい秘書が持って来たのだろうか。

 とにかく、三人はコーヒーを片手に談笑している様子ではなく、いや、亘だけは楽しそうだ。比呂は膝の上で組んだ両手に、やけに力が入っている。手の甲に指が、爪が食い込んでいそう。金城くんは、青い顔で俯いている。
< 90 / 131 >

この作品をシェア

pagetop