CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた

「……そうだ、自分に素直になればいい」
「…!」

まさかこんな雨のなかで烏丸さん以外に聞いてる人がいるとは思わず、ビクッと身体が揺れる。

けれども、聞き慣れた声は……。

「あなた…蓮…さん、ね?」

雨にけぶる夜景の中で、その姿は見えない。でも、私は確信を持って彼の存在を指摘する。

「そう、とも言えるが、違う、とも言える」

謎かけのような答えを返され、少し考えた。もしかしたら…蓮さんが怜さんを演じていた事と関係するのかもしれない。

「オレたちは、この雨に相応しい。人には本当の姿を見られず…好き勝手なものを押し付けられる…」

何も見えない夜闇の雨……。なにも見えず、聞こえず。ずっとその中に立ちすくむ自分。

「オレは、抜け出したい……アンタは?」

初めて、蓮さんの内面にわずかに触れた気がした。
彼も、現状を変えたがっている。“今”に甘んじる事を、良しとせずに藻掻きたい…と。

「わ、私も…変えたい。このままは嫌です!私は……私自身を好きになりたい。自分自身に自信が持てるように……」

スカートを掴んだ両手は震えている…でも、勇気を出したい。悲劇のヒロインぶって助けを求めても、現実は残酷だ。決して助け手など現れてくれない……なら。

「なら」

蓮さんは、私へ決断を促す。

「自分の足で、オレの部屋に来い。1階下のエグゼクティブBルームにいる」

そう告げた彼は、そのまま踵を返したか気配が消えた。

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