CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた

何度も、何度も躊躇った。
けれども、結局決められるのは自分だけ。

蓮さんに渡されたカードキーで専用フロアへのエレベーターを動かす。エグゼクティブフロアは専用のチェックインカウンターがあって、厳しいセキュリティチェックがある。
私自身のIDカードで通されたけれど、ずぶ濡れという異様な格好のせいで少し時間がかかった。

目的のフロアに到着すると、冷えたせいか身体が震える。烏丸さんがカウンターで借りてくれたタオルケットを上着代わりに羽織り、エレベーターから降りてエントランスホールに足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ、奥様。こちらへどうぞ」

バトラーらしき燕尾服を着た白髪の男性が恭しくお辞儀をして、私を中へ誘う。

「…お、奥様?ち、違……」
「ここは、相手に合わせましょう」

慌てて否定しようとしたら後ろから烏丸さんに耳打ちされて、それもそうかと納得した。一応美香とは双子なのだから、初見の他人からすれば見分けはつかないだろう。騙すようで心苦しいけれど……美香だって、私の泊まるスイートルームに入り込んできてた。だから、私がエグゼクティブルームに入ってもいいはずだ。

(2人がいる部屋には帰りたくない……)

「来たか」

ドキッ、と心臓が跳ねた。
蓮さんはバスローブ姿でソファに座り、何か分厚い本を捲ってる。

「バスルームはそちらだ。まずは身体を暖めろ」
「……わかりました」


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