砂浜に描いたうたかたの夢
大袈裟なくらい振るのは、顔を覗き込まれているから。
目が合ったら、それだけでまた涙が溢れ出してしまいそうだから。

こんなぐしゃぐしゃで汚い顔、凪くんに見られたくない。

なのに──。



「一花っ、俺の顔見て」



不意打ちで再び名前を呼ばれて、目を合わせてしまった。



「何があったの……?」

「っ……うぅっ……」



一昨日にも向けられた、吸い込まれそうな眼差し。
それは、私の涙腺を崩壊させる、安心感をまとった優しい眼差し。

凪くんの馬鹿……っ。女兄弟がいるくせに、どうして女心が分からないの……っ。


途端に感情が溢れ出し、再度涙が頬を伝う。
咄嗟に俯くと、背中を擦られているのを感じた。


触れているのか分からないくらいの、かすかな感覚。

それが凪くんの手だと分かると、さらに涙が溢れ出してきて。

口を手のひらで覆って嗚咽を漏らしたのだった。







「少し、落ち着いた?」

「うん。ありがとう」



ひとしきり涙を流した後、近くの階段に腰を下ろした。

すっかり日が沈み、オレンジ色に染まっていた雲は東の空に消え、入れ替わるように夜が徐々に顔を出し始めている。
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