砂浜に描いたうたかたの夢
恐怖を紛らわそうと、帽子を深く被り直したその時。



「うわぁぁっっ!」



突然真横を黒い物体がブーンと通過し、目の前の背中にしがみついた。



「おおっ、どうしたの?」

「あそこ、変なやつがいるぅぅ」



顔を背中にくっつけたまま前方を指差す。



「あー、カブトムシね。この季節ならいてもおかしくはないか」

「いやぁぁ、名前出さないでぇぇ」



セミ事件以来、虫全般が苦手になったが、中でも飛行するタイプの虫は、名前を聞くだけでもゾワゾワと鳥肌が立つ。

特に夏場は活動のピークに当たる時期だから、なお怖い。



「もうやだよぉぉ、帰りたいぃぃ」

「帰りたいなら離れて。これじゃ動けないよ」

「分かってる。でも離れたらあいつが、視界に入る」

「あいつって……。お昼ご飯食べに行くんじゃなかったの? せっかく走ったのに、これじゃ間に合わなくなるよ?」

「ううっ、それも嫌だぁぁ」
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