砂浜に描いたうたかたの夢
淡い思いを抱いた瞬間、どこからか誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。



「一花ぁーっ! 戻ってこーい!」

「チキンステーキ食いに行くんだろー!」



連続で耳に届いた声に、ドキッと心臓が音を立てる。


──お父さんと、智だ。

ということは、もう、すぐそこまで……。



「……あとはここを道なりに進めば着くから。だから……」

「いやだっ!」



遮るように叫んで、腕にしがみつく力を強めた。



「まだ、お別れしたくない……っ」



込み上げた感情が溢れ出し、両頬を伝う。


わがままだなぁ私。今日は早く解散するつもりでいたのに。

またすぐ声が聞けるからと、大好きな人よりも大好物を優先させていたのに。


心の準備が完了していない間に、いきなりお別れの時間が来たからって……本当、親に似て自分勝手すぎる。


だけど──。



「チキンステーキじゃなくて、凪くんがいいっ……」
< 251 / 322 >

この作品をシェア

pagetop