砂浜に描いたうたかたの夢
差し出された小指に、自身の小指を絡める。

と──視界いっぱいに、目が閉じられた端正な顔が現れて、唇に柔らかな感触が広がった。


それは、意識を手放す直前に感じたのと同じ、とても優しい温もりだった。



「……馬鹿で意地悪でチャラくて、ズルい男でごめんね」

「本当だよ……っ」



自分も人のことは言えないけど、私よりも遥かに、凪くんは大馬鹿者だった。

こんなことしたら、ますます離れるのが辛くなるっていうのに……っ。



「ほらっ、早く行って。このままじゃ俺、ひいじいちゃんとばあちゃんに雷落とされる」



体が半回転すると、ポンと背中を押された。



「凪く……っ」



涙にまみれた顔で振り向きながら山道を下る。


後ろには、名残惜しそうに手を振る彼の姿。

自分も手を振り返すと、よそ見したせいか、足を滑らせた。膝がガクンと曲がり、バランスが崩れてよろめく。


回る視界の中で最後に見たのは、愛しい人の頬に伝い落ちた一筋の涙だった。
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