砂浜に描いたうたかたの夢
ボロボロ涙を流す父につられたのか、言葉を紡ぐにつれて、自分も涙が込み上げてきて。親子揃って病室でしゃくり泣く。



「一花……?」



すると今度は、右側から名前を呼ばれた。涙目のまま顔を動かすと、ついさっきまでベッドに突っ伏していたであろう智が目をこすっていた。



「智……っ」

「一花……! お前っ、やっと起きたのか!」

「うるさいっ……それより、なんでチキンステーキのこと知ってるの……っ」



号泣する父に比べて目は赤くないし、涙は一滴も流れていない。

けど、頬にうっすら涙の跡が見えて。

もしかして泣き疲れて寝てたのかなって思ったら、また涙が溢れ出してきた。



「ごめん、廊下で盗み聞きした」

「サイテー……っ」



毒を吐くも、笑って受け止めた智。「母さんに連絡してくる」と言い残すと、ナースコールを押して病室を出ていった。


4つベッドがあるものの、埋まっているのは窓際の1つだけ。

だだっ広くて殺風景な病室に、私と父の2人だけが残った。
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