砂浜に描いたうたかたの夢
「おっ、凪」



わざとらしく足音を立てながら階段を上っていると、踊り場に4歳年上の姉が現れた。


よれよれのTシャツに着古して柄が薄れたハーフパンツ。

完全オフモードの部屋着ということは、今日はバイトは休みのようだ。



「おかえり〜。イライラしてるねぇ。またお母さんと喧嘩したの?」

「……どけよ」



そう吐き捨てて去ろうとするも、両手で壁を押さえて通せんぼ。

睨むように見上げると、食堂で見た理桜と同じくらい口角が上がっている。



「もしかして、またパンフレット絡み?」

「……どけって」

「分かる〜。私も特典の図書カード欲しかったもん。画材爆買いしまくる凪にとってはのどから手が出るくらい欲しいよね〜」

「どけっつってんだろ!」



体当たりして強引にバリケードを壊し、自分の部屋に駆け込んだ。


内定が出たからって調子に乗りやがって。

特典? ふざけるな。
確かに万年金欠だけど、それ目当てで注文したわけじゃない。
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