砂浜に描いたうたかたの夢
水分補給のため、岸に向かった時。振り向いたら、海面から顔を出しては引っ込めていて。

最初はふざけているのかと思ったのだが、呼びかけても返事がなく、慌てて電話したのだそう。



「桃士は⁉」

「他の人を呼びに行ってる。けっ、警察には電話したからっ」

「分かった。分かったから落ち着け」

「おーい!」



顔を真っ青にする鋼太郎の背中を擦っていると、桃士が数人の大人を連れて戻ってきた。

紐を繋ぎ合わせて長くするように、手首を掴み合って、波が押し寄せる海に入っていく。



「理桜、待ってろ。今行くからな」



溺れている彼に声をかけつつ、人間ロープを伝い、先頭に立つ。

あと少し、あと少し。

鋼太郎の手首を掴んで手を伸ばしたが──大きな波が理桜に覆いかぶさった。



「浅浜! 大丈夫か⁉」

「うん……」



水しぶきに怯み、眉をひそめながら閉じた目を開ける。



「あれ……?」
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