熱く甘く溶かして
* * * *

 恭介が松尾を送っている間、智絵里は部屋の中を眺めていた。恭介をそのまま映し出したような雰囲気を感じる。

 本棚にはミステリー系の文庫が並び、城や鉄道、釣りの本が並ぶ。

 好きなものはブレなくて、博識で、優しくて、私の面倒くさい性格を理解してフォローしてくれた頼りになる存在。

 人見知りの私は友達を作るのが苦手で、クラス替えの後は不安でいっぱいだった。つい無口になってしまう私を、恭介は一人にしないでくれた。

「何ぼーっとしてんの?」

 恭介は本棚の前て立ち尽くしていた智絵里の背中を押して、部屋の中央に置いてあったデニム生地のソファに座らせる。そして自身はキッチンへと向かった。

「コーヒーか紅茶、どっちがいい?」
「じゃあ紅茶。砂糖は二杯入れて」
「やっぱり今も甘党なんだ。智絵里らしい」

 部屋はブルー系でまとめられていた。落ち着いてホッとする感じがしたが、改めて男の人の部屋だと実感する。

 そう思うと不安になった。のこのこついてきてしまったけど、彼とこれから一緒に生活なんて出来るのだろうか。

 すると恭介が隣に座って、智絵里に白いマグカップを手渡す。

「もう不安になってる?」
「だって……誰かと暮らすなんて初めてだもん」
「そんなこと言ったら、俺だってそうだよ。でもあの部屋に智絵里を残して帰りたくなかった」

 何もない無機質な部屋。そこに智絵里を一人きりにしたくなかった。
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