友達、時々 他人
「鶴本くん」

 龍也が鶴本くんに一歩近づく。龍也が、ほんの数センチ鶴本くんを見下ろした。

「鶴本くんは巨乳好きなの?」

 周囲には聞こえない、けれど私たちには聞こえる声で、言った。

 龍也が何を言い出すのかと、私までハラハラする。

「それとも、コスプレ好き?」

 龍也が、他人に挑戦的なことを言うのは珍しい。

「違います!」と、鶴本くんが言った。

「俺は、麻衣さんが好きなんです」

 きっぱり。

 その一言で、私は鶴本くんを好きになった。

 きっと、龍也も。

「そっか。なら、いいよ」

「なんで龍也がOK出すのよ」と、私は龍也の腕を軽くパンチしながら言った。

「何となく?」と、龍也がおどけて笑う。

「鶴本くん。一方的に麻衣さんを傷つけるようなことがあったら、おっかないお兄さん三人が黙ってないから」

「ちょっと、龍也!」

 麻衣が慌てて龍也に詰め寄る。

「やめてよ、変なこと言うの」

「本気だよ。俺じゃなくても、大和さんも陸さんも、きっと同じことを言うよ」

「鶴本くん、脅しじゃないよ? OLC(ウチ)の男どもは麻衣のことを溺愛してるからね。実際、麻衣を泣かせた男を締め上げたこともあるし」

 そうなのだ。

 大学の頃、麻衣が同じ大学の男にSMを強要された時、大和さんを始めとするOLCの男どもが、あわや暴力事件を起こしそうになった。

 そうなる前に、相手の男が逃げ出して、事なきを得たけれど。

「だ、大丈夫です! 泣かされるのは……俺の方だと思うんで……」

 ははは、と鶴本くんが少し情けない顔で笑った。

「もうっ! 龍也もあきらも物騒なこと言わないで」

「はいはい。じゃ、ね」と言って、私は龍也の腕に触れた。

「行こう、龍也」

「ん。あ、ちょい待ち」

 龍也が鶴本くんに近づき、耳元で何か囁いた。

 私と麻衣には聞こえない。

「じゃ」

 私と麻衣は互いに手を振って、別れた。

 私と龍也は札駅に隣接した電機屋に向かう。何となく振り返ると、エスカレーターで上がっていく鶴本くんの背中が見えた。麻衣は後ろの男性に隠れて見えない。

「鶴本くんに、何を言ったの?」

「ああ」

 龍也が私の肩をグイッと抱き寄せた。私が彼を押し退けようとする前に、解放されたけれど。正面から歩いてきたガタイのいいロシア人らしき外国人の男性三人に、私がぶつからないようにしてくれただけだった。

「気合い入れて気取った店とか行かない方がいいって教えてやった」

「なに、それ」
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