絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜

 徳香はスプーンとフォークを置くと、頬杖をつき息を吐いた。

「幼稚園の先生とかって、あまり理解の得られない職業なんだよね。やっぱりちょっと特殊じゃない?」
「うん、なかなか想像はつかないかも」

 アイスティーを手に取り、ストローを弧を描くように回しながら、どこか遠くに視線を投げかける。

「前に合コンに言った時、『子どもと遊ぶ仕事なんて、楽そうでいいね』って言われたの。そんな簡単な仕事じゃないのよ。何か活動する時には指導案を書かなきゃいけないし、一人一人の子供に合わせて援助することだってそれぞれ違う。制作の準備、ピアノの練習、部屋の飾り付け。行事があれば残業、休日出勤は当たり前でも、固定給だから残業代も休日手当もつかない。『子どもが帰った後に何やってるの?』って言われた時は、ブチ切れそうになったわよ」

 最後の方は怒りのあまり、声を荒げてしまった。それを聞いた信久は笑顔を浮かべると、徳香の頭をそっと撫でる。

「だから信久がちゃんと仕事として理解してくれて嬉しかった。ありがとう」
「徳香の場合は、たまたま話した相手が悪かっただけだよ。みんながそうとは限らない」
「笹原さんや長崎さんはそんなこと言わない?」
「さぁ、それは俺にはわからないよ。少なくとも楽そうとは言わないんじゃないかな」

 肯定も否定もしない。憶測で話をしない。

「信久のそういう誠実なところ、悪くないと思う」

 この間の信久の言い方を真似して言うと、彼は初めて口を開けて笑い出した。徳香は驚いて目を見張る。信久はメガネをずらして涙を拭く。

「まさかそう返されるとは思わなかった。徳香って本当に面白いな」

 それはこっちのセリフよ。こんなふうにも笑えるんじゃないーー徳香は得した気分になって、再びパスタを頬張り始めた。

「次こそお互い相手との距離を縮めたいね」
「そうだな」

 同志で仲間。励まし合える人がいると、もっと頑張ろうって思える。
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