絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜

 駅に着き、ホームで電車を待ちながら、徳香はハッとして信久のジャージの裾を引っ張る。

「あのさ、さっきはありがとう。ちょっとテンパってたから、信久が声をかけてくれて安心したのよ」

 ただお礼を言うだけなのに、どこか照れ臭い。だからわざと顔を逸らした。

「信久ってば、あの後ずっと長崎さんの写真ばっかり撮ってたから、お礼を言うタイミングを逃しちゃったよ」
「えっ……あぁ、ごめん」

 電車が到着し、徳香を先頭に乗り込む。空いていた席に徳香が座り、その隣に信久も腰を下ろす。

「これからはこうやって一緒に帰れるね」
「そんなこと言って、笹原さんに誤解されても知らないよ」
「えっ、友達なんだからアリじゃないの?」
「……誤解されない程度ならね」
「それはお互い様でしょ?」

 徳香が笑うと、信久は困ったように下を向いた。その反応が今までに見たことのないものだったので、徳香は戸惑った。

「今日徳香の新しい一面を見てさ、なんかびっくりしたんだ。本当にすごかった……というか、すごく綺麗だった」
「えっ、いやだ……なんかやけに素直じゃない……。でも信久に褒められるの、結構嬉しいかも。ありがとう」
「いや……っていうか、新体操をやってたなんて知らなかったよ。いつまでやってたの?」
「高校生まで。インターハイに行くのが夢だったんだけど、それが叶わなくて諦めたの。だから今日は本当に久しぶりでドキドキしちゃった」

 指に髪を絡めながら、あの夏の記憶に想いを馳せる。インターハイに行けなかったら新体操をやめる、そう思って臨んだ大会で結果を出せなかった。

 でも今は子どもたちと体を動かすのが楽しいし、全て無駄になったわけじゃない。ちゃんと自分の中に生きていると感じていた。
< 30 / 133 >

この作品をシェア

pagetop