絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
恋のレクチャー
 信久はいつもより早めにデスクを離れると、社食に行く前に総務部に向かった。

 ぞろぞろと外に出てくる人の中から杏を見つけ、信久から駆け寄っていく。

「長崎さん!」

 振り返った杏は驚いたように信久を見た。

「松重くんじゃない。会社で声をかけてくれるなんて珍しいね。どうしたの?」

 いつものように笑顔で応えてくれた杏に、信久はどこか安心した。というのも、信久は自分から話しかけるような積極性を持ち合わせていないため、かなり勇気のいる行動だったのだ。

「あのっ……ちょっとお話ししたいことがありまして……」

 信久の言葉を聞いて杏は頷くと、一緒にいた同僚たちに断りを入れる。女性たちが興味津々という目で信久を見たため、信久は気が引けてしまった。

「じゃあ行こっか」
「あ、ありがとうございます」

 頭を下げると、二人は人目を避けるように階段遠降り始めた。
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