絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
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 幼稚園教諭として働く徳香は、金曜日の夜はなるべく早く帰るようにしていた。定時になっても仕事が終わらなければ、とりあえず家に持ち帰る。

 固定給のため残業代は出ないし、むしろ土日はやることもないから仕事に集中出来る。長々と幼稚園に留まるよりは、持ち帰った方が気が楽だった。ただ月曜日の荷物が多くなるのだけが難点だったが。

 今夜は珍しく荷物が少なかったため、久しぶりに真っ直ぐ家には帰らずに、ショッピングモールの中にある映画館に立ち寄ることにした。

 昔から映画を観るのが好きだった徳香は、学生時代は一人で映画を観るのが当たり前で、休みの日には一日に三本ハシゴすることもあった。

 本当のことを言えば、バスケより映画が好きだった。しかし出会いのない幼稚園教諭という仕事柄、男性との出会いを求めてサークルに入会したのだ。だからこそ後ろ向きなことを言ってはいられなかった。

 今から観られる映画を探していると、タイミングよく、あと二十分ほどで始まる探偵物の映画が見つかった。トイレに行って、ポップコーンと飲み物を買ったらちょうどいい時間だった。

 チケットを買おうとスマホを取り出した途端、
「あれ、小野寺さん?」
と突然誰かに声をかけられる。

 驚いて声のした方を振り返った徳香は、思わず口をあんぐりと開けた。なんとそこにいたのは、スーツ姿の信久だったのだ。

「あっ、ごめん。話すの初めてなのに、普通に声かけちゃった」
「あっ、ううん、別に平気だよ」

 同じ路線なのは知ってたけど、まさかこんな場所で会うとは思わなかった。
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