絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜

「小野寺さんもレイトショーに来たの?」
「……そう……なんだけど、松重さんの印象が違いすぎて戸惑ってる」

 普段ジャージの人のスーツ姿ほど、違和感を覚えるものはなかった。

「何それ。仕事帰りだし、普通はスーツだよ。ってかスーツでバスケやったらおかしいでしょ。それを言ったら小野寺さんだって、デニム姿なんて初めて見たよ。お互い様じゃない?」
「だって仕事帰りだし……」
「で、何観るの? 決まった?」

 信久は上映する映画の情報を示すモニターを見上げると、徳香に尋ねた。

「うん、あの探偵映画。すぐ始まりそうだし。松重さんは?」
「来てから決めようと思ってたんだ。ねぇ、良かったら一緒に観ない? たまには誰かと観るのもいいかなって思って」

 その言葉を聞いた徳香は再び驚いた。

「もしかして映画好きだったりする?」
「バスケよりね」
「なんだ、私と一緒」
「そうなの? 小野寺さんって運動神経いいし、てっきりバスケ大好き女子かと思ってたよ」

 淡々と話す信久に、徳香は初めて好感を持った。想像していたよりも普通の人で安心した。

「私も普段は一人だから、久しぶりに誰かと観るのもいいかも」
「よし、決まり。座席はどこがいい? 俺は一番後ろが好き」
「あっ、私も。じゃあ隣同士でチケット買おう」

 二人はそれぞれスマホでチケットを購入すると、ポップコーンと飲み物も購入する。

 初めて喋ったとは思えないくらい、スムーズにことが進んでいく。それにバスケをしている時には見たことのない、笑顔を向けてくれるので、徳香は少し困惑もしていた。まだ会って数分なのに、すごく楽しいと思い始めていたからだ。

 もしかして私たちって似ているのかしらーーそう思うと、同志に出会えた嬉しさから、徳香は思わずニヤけてしまった。
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