絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
 体育館に戻ると、試合を終えた修司たちが楽しそうに騒いでいるのが見えた。

 そして先ほど徳香に詰め寄った女性たちは一緒に盛り上がりながら、視界に徳香が入ると睨みつけてくる。

 それでも信久が背中を押してくれると、少しだけ勇気が湧いてくるようだった。

「じゃあ後でね」

 そう言うと信久は徳香の元から離れ、部長に話しかけに行ってしまう。

 その背中を見送りながら、徳香は修司が一人になるタイミングをうかがっていた。修司が飲み物を取りに行くタイミングで、徳香は自身に喝を入れてから彼に近付いていく。

「あのっ、笹原さん」
「あぁ、小野寺さん。どうかした?」

 いつも通り優しくてカッコいい。徳香は意を決して口を開いた。

「……笹原さんにお話があるんです。良かったら今度……お時間を作っていただけないでしょうか?」

 修司はまるでその言葉が来るのを知っていたかのように、困ったように笑う。

 やはり徳香の気持ちはダダ漏れだったようだ。胸がチクリと痛んだが、信久に宣言したし、今更引き下がるわけにはいかない。

「いいよ。明後日の夜とかはどうかな?」
「えっ……いいんですか⁈」

 断られるのを覚悟していた徳香にとって、予想外の言葉が返ってきたため、驚きを隠せなかった。

 明後日は何も打ち合わせは入ってなかったはず。仕事も持ち帰れば大丈夫。

「じゃあ駅前のイタリアンのお店の前に十九時集合でどう?」
「もちろん大丈夫です! 楽しみにしてます」

 修司は頷くと、再び仲間たちの元へ帰っていく。

 本音を言えば、あの時の困った笑顔が徳香の心から離れず、未来を予測しているようで胸が苦しくなった。

 きっと答えはもう出てる。わかっているが、こうして二人の時間を作ってくれたということは嬉しかった。

 伝えたいことはいくつもある。でもそれを伝えたら、この片想いは終わりを迎える。

 遠くで信久が心配そうに徳香を見つめていることに気付き、徳香は指で丸を作って笑いかけた。すると信久が頷く。

 早くサークルが終わらないかなーー信久に話したいことがたくさんあり過ぎて、時間が早く過ぎればいいのにと思った。
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