絶対的恋愛境界線〜当て馬だってハピエン希望です!〜
◇ ◇ ◇ ◇

 徳香が体育館に入ってくるのが見えた。しかし信久は少し気まずくて声をかける気になれなかった。

 だが彼女が歩いていく先に修司がいることに気付き、信久はばっと立ち上がる。

 徳香は荷物を置くと修司の隣に並んで立ち、何やら話を始めた。

 何を話しているのかな……徳香は大丈夫なんだろうかーー信久が二人の様子を気にしていると、誰かが近付いてくるのがわかった。

「松重くん」
「あっ……長崎さん」
「いきなり声かけちゃってごめんね。今話しても良い?」
「大丈夫です」

 そう言いながらも、徳香が気になって仕方なかった。

 杏は信久の隣に立つと、視線をくるくると動かしながら、何か言いたそうに口を開いては閉じるを繰り返している。

「なんですか? とうとう笹原さんに告白でもされたんですか?」

 信久が軽く言うと、杏は驚いたように飛び上がった。

「な、なんでそれを……!」
「なんとなくですよ。長崎さん、わかりやすいくらいに挙動不審だから」

 そう言うと、杏は恥ずかしそうに両頬を手で押さえて笑う。

「……この間ね、食事に誘われて……付き合って欲しいって……」
「良かったじゃないですか。長崎さん、なかなか行動に移さないからこっちはヤキモキしていましたし」
「うっ……それには反論出来ない……。だから告白をする勇気がある子がすごいと思った……」

 杏は肩を落として苦笑いをする。その様子から、徳香が告白したことを知っているのだと察する。

「……聞いたんですか?」
「ううん、聞いてない。ただ彼がね、ある人に背中を押されたって言って悲しそうな顔をしたの。だからもしかして……と思って……」
「……そうですか……」

 信久は徳香が修司と楽しそうに笑い合う姿を見て胸が苦しくなる。それと共に、ずっと気になっていたあの日の言葉を思い出す。

『あっ、その間にちゃんと長崎さんに伝えるんだよ! じゃないと、私も慰めてあげられなくなっちゃうかもしれないからね』

 それは徳香が俺以外の誰かと付き合うことを指していて、徳香に恋人が出来たら、俺は今みたいに彼女に会えなくなるーーそう考えて胸が苦しくなる。

 徳香が違う男と幸せになるのを見守るなんて、そんなことは無理な話だった。
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