お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
こうしてわくわくが止まらないまま、アフレコ当日を迎えた。収録スタジオへ先輩について向かう。
絶対にファンっぽいところは見せちゃ駄目だ。あくまで仕事の相手として接しなければ。自分に言い聞かせていると、待機していた応接室に本日の主役が登場した。

兆徹くん。二十六歳、超人気声優。ああ! 目の前にいる!

「はじめまして。兆徹です。今日はよろしくお願いします」

ぱっと明るい笑顔、そしてこのいい声!! 兆くんは顔立ちもアイドル系で人気があるんだけれど、やっぱり声が私の好み過ぎる! 今の推しのジャスくん役もそうだし、過去の作品も……。

「本日はよろしくお願いします。ニケーの斉藤です」
「さ、榊です」

名刺を差し出し挨拶をする傍から、斉藤さんが言う。

「榊は兆さんの大ファンだそうで、今日はとても楽しみにしていたんですよ」

ほわあっと私は変な叫びを発しそうになり、飲み込んだ。斉藤さんは話のタネに、少し盛ってこんなことを言ったのだ。しかし、私が大ファンなのはまぎれもない事実!
今すぐここで彼の出演作を端からあげ、愛を語れるレベルの私がいる。ジャスくんの声で決めゼリフの「な、俺についてくれば間違いないだろ?」って言ってほしい私がいる!
だけど、そんなこと言えないわーい!
私は二十八歳の落ち着いた会社員として微笑んだ

「兆さんの出演作、いくつか拝見しております。少年めいた透き通る声、冷徹な悪役の声。どんなキャラクターも兆さんの声で何倍も魅力的になっているように思います。そんな素晴らしい声優さんに弊社のCMのナレーションをお引き受けいただき、感動しています」

溢れ出る好意をぐぐっと抑え、大人の態度。仕事相手を熱心に研究してきた一社員といった雰囲気で挨拶できたんじゃないの? 私、えらい!

「うわー、そんなふうにおっしゃってもらえると嬉しいなあ! 俺自身は自分の声って子どもっぽいって思っているもので」

「とんでもないです。『アークスター』のレイジ・イノウエ役とか、クールで頼もしい役柄にもぴったりのお声でした。演技力がずば抜けているせいもあるかと思いますが」
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