お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
「色々見てくださってるんですね。しかも褒めていただいちゃって、すごく照れます~」

兆くんがふにゃっと相好を崩す。少年的な笑顔も可愛いかもしれないけれど、なによりその声が私の脳と心をぐわんぐわん揺さぶる。ああああ、好きな声すぎる~! ジャスくんだぁ、生ジャスくんがいるよぉぉぉ!

「俺、今回のCMに起用してもらったのはチャレンジだと思ってるんです。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

兆くんは頭を下げ、応接室を出て行った。控室へ向かうのだろう。
私は顔や態度こそ平静を装っているが、推しに会ったという感動を全身で感じながら、その余韻に震えていた。まだ仕事は始まったばかりだけれど、すでにやり切った気分だ。百点満点のファンムーヴができた自分に乾杯。
いい感じだった。暑苦しく愛を押し付けなかった。私ってファンの鑑。

「人気声優さんなんだよね。全然奢ったところのない感じのいい男の子じゃない」

斉藤さんがほっこりと笑顔になり、私は心の中で百回くらい頷いた。そうなの、彼ってファンサも神なの! そこも人気があるの!

「ですね。まだ、若いのにすごいです」

擬態を得意としたオタクはこんなときも興奮せず、大人の微笑を見せられるのだ。


そうして始まったアフレコは、とっても感動的だった。というか、アフレコの見学が初めてだったから余計なんだけど、プロの声優さんのプロの声を近くで聞けるなんて最高。

『すべての人のために、ニケー』

彼の声が響くと、その場にいる誰もが彼をうっとりと見つめてしまう。ああ、こんな素敵な声に産んでくれたご両親に感謝。拝みたい。課金したい。
何パターンか録り、あっという間にアフレコは終了した。台本がすごく短いというのもあるけれど、人気声優のスケジュールをそう長い時間は抑えられなかったようだ。
はあ、それにしても耳が幸せな時間だった。SNSで自慢したいけどできない。千夏ちゃんにだけこそっと言おう。

「今日はありがとうございました」

応接室で再び兆くんと向かい合いご挨拶。すると、兆くんが私と斉藤さんに封筒を差し出してきた。

「あの、これよろしければ。今度、朗読劇やるんです」
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