お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
「うん」
「待っていて。雫にも、いつか来てくれるだろう俺たちの子どもにもそう言うよ」
「きっと、赤ちゃんも待っていてくれるよ」

ああ、言葉にしてよかった。彼が行ってしまう前に未来を相談できてよかった。
寂しいけれど、私たちはきっと大丈夫。離れても耐えていける。
何度目かのキスを交わし、私たちはまたシーツの波間に沈んでいく。


高晴さんは出向先の仙台支社研究所へ出かけていった。
挨拶と住居の準備が主だ。明日には帰ってくる。そして半月後には、正式に旅立つ。
私は私の道を頑張らなければならない。
だって、ふたりでそう決めたのだから。

高晴さんが一泊で出向先に向かっている間、私は心穏やかに過ごした。出向と聞いてから波立っていた心が嘘のよう。寂しくないとは言わないけれど、頑張ろうって思える。気持ちが通じていれば遠距離だって大丈夫。私と高晴さんだもの。

そうして高晴さんは一泊を終え、翌日の夕食の時間帯に帰ってきた。手には仙台銘菓の黄色いふわふわのお饅頭。

「雫、ただいま」
「おかえりなさい! お夕飯できてるよ!」

声をかけ、お土産を受け取りながら、高晴さんの表情が微妙なのに気づく。
んん? なんか複雑そうな顔してない?

「どうしたの?」
「雫、落ち着いて聞いてほしい」
「な、なになに?」

落ち着いて聞かなけりゃならない事案なんて、人生でそうない。
何があったの? もしかして、出向より困ったことが起こったの?

「俺の出向なんだけど」
「うん!」
「三ヶ月間だった」
「……へえ?」

私は変な声をあげて、その口のまま固まった。
三ヶ月間? それって……。
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