お見合い婚にも初夜は必要ですか?【コミック追加エピソード】
俺が笑うと、横の雫はうっすら微笑んで、空を見上げていた。俺も倣って見上げた。ペンギンとその向こうの夜空。都会の灯りで眩しいけれど、星がいくつか出ている。

「あのね、高晴さん、これ見てくれる?」

雫が俺の手を取ったと思ったら、一枚の紙を滑り込ませてきた。

「今日、病院に行った」

それは、一枚のエコー写真だった。黒い扇状の中心に丸く印がついている。医師が書きこんでくれたのだろう。小さな袋と中に豆粒みたいな塊が映っていた。
俺は目を見開き、言葉も出ないまま雫を見やる。彼女は堪えきれないように笑った。顔中真っ赤にして、細められた目の端に涙が光っていた。

「心臓、動いてた。来年の春に生まれるよ!」
「雫!」

俺は人目もはばからず雫を抱き締めていた。
雫の身体に新しい命が宿っている。俺と雫の子どもが宿っている。

「デートの最後に言うなんて、憎い演出だね」
「でしょう? 本当は早く言いたくてうずうずしてた」

くふふと幸せそうに笑う雫をぎゅっと抱きしめ、それから慌てて力を緩める。お腹を圧迫してはいけないから。ちょっと身体を離して、涙をこらえ、彼女の瞳を見つめる。

「嬉しいよ。きみも生まれてくる子どもも、俺がきっと幸せにするから」
「それは心配してません」

雫が自信満々に俺を見つめ返す。

「私、とっくに幸せだもん。高晴さんと結婚してからずーっと」

ねー、とお腹に呼びかける雫を俺は再び抱き寄せた。


俺と雫は、来春パパとママになる。




おしまい







最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
2022.6.17
砂川雨路
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