秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 帰宅すると、大雅はさっさとキッチンへ入っていった。「千香はゆっくりしていて」と言われても、なんだか落ち着かない。
 リビングで洗濯物を片付けながら、大雅の背中を見守る。
 どうやら自炊していたのは本当のようで、背後からでもその手際のよさが伝わってくる。

 陽太の食事は、薄味で小さく切ったものを柔らかくして……と概要を伝えてあるが、同時進行で作っていくから驚いた。

「ほら、できたよ」

「わぁ」

 テーブルに並ぶ料理に、感嘆の声をあげる。
 照り焼きチキンをメインに、葉物のサラダにはポテトサラダまでそられている。具がたっぷり入ったコンソメスープといい、栄養バランスもしっかり考えられている。

 陽太の分も大人のメニューからうまく取り分けられており、メインはササミに変更するというこだわりようだ。

「すごい」

「そう? 簡単なものになっちゃったけど」

 短時間でこれだけ作れてしまうのは相当な腕前だと、感心する。

「じゃあ、食べよう」

 陽太を座らせると、早速自分も席に着いた。
 いつもはふたりきりの食卓に大雅が加わると、一段とにぎやかになる。

「陽太、上手に食べるね」

 実際はぽろぽろとこぼしているのに、それにはいっさい触れない。一生懸命ご飯を食べている陽太の頭をなでながら褒めてあげられる大雅は、やっぱり優しい人だ。
 いつもの私はつい口うるさくなりがちだったと、心の内で反省する。

 陽太も褒められていると伝わったのか、上機嫌で食べている。

「美味しい。料理上手なんだね」

「手の込んだものは作れないけどね。いつか、千香の手料理も食べてみたいな」

 案外おねだり上手のようで、期待を込めた目で見られたら反射的に「うん」と返してしまった。
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