秘密のベビーのはずが、溺甘パパになった御曹司に一途愛で包まれています
 車を発進させながら、ここからほど近いところにあるデパートへ行くつもりだと教えてくれた。

 陽太は車に乗った経験は、通院で数回タクシーに乗った程度だが、意外と平気なようで物珍しそうに辺りをきょろきょろと見ている。
 でも、いつもより少し早起きしていたのと揺れが心地よかったのか、到着した頃にはうつらうつらと寝入る寸前になっていた。

 これまでの経験上、眠そうなタイミングでベビーカーに乗せれば泣かれてしまう可能性が高い。体重も増えてきて大変だけど、抱っこひもを使うべきかと悩んでいると、さっと大雅が抱き上げてくれた。

「俺が抱っこしていくよ。いいよな、大雅」

 すりすりと頬をすり合わせた大雅の髪を、陽太がぎゅっと握る。泣き出さない陽太を見て、そのままお願いすることにした。

 左右に並ぶ店を見ながら、なにがよいかと思案する。

「加奈子さんはキッチンに立つのが好きで、お菓子作りもする人なの。プロ並みの腕前なんだよ」

「そうなんだ」

 いただき物をちょくちょくおすそ分けしてくれる様子からすると、焼き菓子なんかは加奈子さんを困らせかねない。
 かといって、豪華すぎたり畏まったりするものは、私と加奈子さんの間柄を考えれば水臭いとかえって叱られてしまいそうだ。以前、出産に付き合ってもらったお礼にちょっとしたブランドの茶器を渡したとき、『他人行儀すぎるわ』と言われたのを思い出す。

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