あなたの落とした願いごと
「狛犬は海外から日本に伝わったんだけど、元々は獅子の姿をしてたらしい」


一呼吸置いていつもの声色に戻った彼の足音が近づき、私の目の前にある阿形の狛犬をそっと撫でる。


「そういう歴史があるから、本当は阿形が獅子、吽形が狛犬の姿を表してるんだってさ」


滝口君のよどみない説明からは、彼がどれだけ神社の事を勉強しているのかが手に取るように分かった。


こんな知識を披露する余裕がある程に完璧人間だなんて、凄すぎる。


「すごっ…滝口君、本当に物知りなんだね」


さすがは将来の宮司さん、なんて考えながら拍手を送ると。


「いや、お前が馬鹿なだけだから」


辛辣な一言を頂戴してしまった、やっぱり彼が毒舌な事には変わりが無いようだ。


「おっと神葉、今度は沙羅ちゃん沼らせようとしてんの?」


私が狛犬…いや、獅子の前でむっとした顔をしていると、滝口君の後ろから休憩が済んだらしい空良君とエナが姿を現した。


「いや言い方よ」


私の隣に居たのっぺらぼうが後ろを向き、にやにやしているのであろう空良君に棒読みのセリフを投げつける。


「ねえ、此処神社?寺?」


「そういえば、神社とお寺の違いって何なんだろうね?」


そんな滝口君の言葉を無視して信じられない疑問を投げかけた空良君に、エナが今だと言わんばかりに乗っかった。


「お前ら本気で言ってんの?それでも日本人かよ」
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