攫い
声に振り向けば、冴が立っていた。
その表情はあきらかにご機嫌ナナメといった様子。
敵意を剥き出しにしながら鳴海くんを睨み据えている。
「おはよう冴くん。大事な紅羽ちゃんにずいぶんな挨拶だね」
「うるせぇバーカ」
鳴海くんに冷たく返した冴は、ボサボサにした私の髪を今度はやさしく梳きはじめた。
な、なんのつもりなの?
いぶかしく思いながら冴のことを見ると、視線がぶつかった。
「おい紅羽、鳴海となんて喋るんじゃねぇよ」
いきなりのわがまま発言。
「私が誰と話そうと私の自由でしょ。なに怒ってるの?」
「おまえが鳴海と喋るからだ。好き勝手触らせやがって」
私の耳もとに触れてくる。
それはついさっき、鳴海くんに髪をかけられた右耳。
「やめて、くすぐったい」
「誰にも触らせんな。話しかけられても無視しろ」
「そんなのできないよ……冴、どうしたの?」
「くそ、やっぱり髪なんて切るんじゃなかったんだ……。綺麗なモンは……すぐに汚される。紅羽はオレのなのに……」
私の声など届いていないのか、ふたたび鋭く鳴海くんを睨(ね)めつける冴。
いつもの元気な姿とは一線を画した雰囲気に、周囲の温度がどんどん冷え込んでいく。