攫い
そのとき、担任の岡野先生が入ってきた。
気づけば朝礼の時間になっていたらしい。
「余計な手出しすんじゃねーぞ、鳴海」
低い声で放った冴は、自分の席に座った。
とはいっても余裕で私の前の席なので、その背中から醸し出される不機嫌オーラをほぼ直に浴びせられるも同然。
な、なんだこいつ!手出しって……言い方!
鳴海くんとは普通に話してただけなのに!
あとでつついてやる!
「ごめん鳴海くん、気にしなくていいから……」
私はすぐさまフォローするため隣に視線を転ずると
「いいよ。またこうして、触ればいいから」
てのひらが、私の右耳を包みこんだ。
スリ……と、ひと撫でしたあと、鳴海くんは一瞬だけ目を細めて黒板を向いてしまう。
それは、普段から疎い私にすら感じ取れてしまう──牽制。
右耳が心臓になってしまったみたいにドクドクと脈打って、先生の話なんか入ってこなかった。