The holiday romance
最後の夜
トマムでの体験はユキにとって忘れられない思い出になった。

残念ながらテントに泊まれる部屋ではなかったが
日中にテントを張り、BBQを楽しんだ。

「BBQはしたことあるんだ?」

「あぁ夫の仕事関係の人と庭でホームパーティーしたりすることがあって…。」

「ホームパーティー?
やっぱなんか世界が違うっていうか…」

シンはユキが自分のことを話すたびに辛そうな顔をするのを感じていた。

それでも少しでもユキのことが知りたかった。

「なんかテントの中ってワクワクするね。」

ユキはテントの中でまるで子供みたいに
はしゃいでいた。

夜はホテルの部屋でゆっくりと時間を過ごした。

シンは今まで以上に丁寧に時間をかけてユキの身体を愛し、
ユキもシンに教わった通りに色んな場所で色んなことをしてみた。

「やっぱ…ユキさん…エロいって…」

「シンくん…こっち見て。抱きしめて。
ギュッて息が出来ないくらい。」

ユキがシンの名前を何度も呼んで
シンはユキの中に溺れていく。

「好きだよ…ユキ…」

シンがユキの耳元でそう言った。

その瞬間、ハジメのことを思い出した。

終わった後の愛のない「愛してる」が聞こえた。

ユキを義務で抱くハジメの指や唇が甦る。

その瞬間、ユキはシンから離れた。

「…ユキさん?ごめん、なんか嫌だった?」

ユキは我に帰り、シンに謝った。

「ごめん…違うの。」

シンはそんなユキを優しく抱きしめ、髪を撫でる。

「好きって言ったらダメだった?」

ユキもシンを大切に思っていたが、シンの純粋な気持ちを今のユキでは受け入れられない。

シンを五明との戦いに巻き込むワケにはいかなかった。

「私を…好きにならないで。」

その言葉はシンを辛くさせ、
ユキはこれ以上シンと居てはいけないと思った。

そしてハジメとの話し合いをこのまま避けていても何も解決できないと思い知った。

「ごめん…出逢って間もないのに好きなんて言葉は…軽いって思うよね。
引かれちゃったかな?」

「そんなことない。シンくんの気持ちは本当に嬉しいけど…今の私にはその気持ちを受け止められない。」

「旦那さんと別れないってこと?」

ユキはそれ以上何も言わなかった。

口にしたらシンが傷つくとわかっていたから
何も言えなくなってしまった。

シンの気持ちには嘘がなく
ハジメとは違う世界をシンは見せてくれた。

ユキはこの数日で恋する気持ちや人の温かさをシンに教えてもらったことに感謝した。

泣きそうな顔でユキが目を閉じるとシンはそれに応えるようにキスをする。

ユキの頬に涙がこぼれ落ちて
シンはその涙を舌で拭った。

「明日はどこに行きましょうか?」

シンがユキの髪を撫でてそう聞くと
ユキの顔が曇って行くのがわかった。

シンはそれを察して
「明日は無いんですね。」
と呟いた。

ユキが頷いてシンはベランダに出てユキと空を見上げる。

空から降ってくるような星が綺麗な夜を期待していたが微妙な曇り空だった。

「明日の朝、雲海観れると良いですね。」

「予想は18%だって。」

「厳しいですね。」

「厳しいね。」

そして何となく見つめあってまたキスをした。

シンが大きなため息をついて
ユキはまた涙が溢れそうになった。

「ユキさん、泣かないで。
会いたくなったら会えばいいじゃないですか。
俺、どこでも逢いに行きますよ。」

ユキは頷いたけどシンとこれ以上会う事など自分には許されなかった。

「シンくん…ありがとう。
この3日、すごく幸せだった。
色んなこと経験して、たくさん笑って、たくさん食べて…」

「たくさんユキさんに触れた。
マジで楽しかった。

俺、ユキさんの事…忘れません。

きっとまた逢いましょうね。」

その約束は叶わないとユキはわかっていたけれど
シンには優しい笑顔で応えた。

「うん。またいつか…どこかでね。」

次の日雲海は思ったほど出なくて…
2人は少しガッカリした。

「ユキさん、もう1日だけ一緒にいませんか?
雲海が観れるまでここに…」

シンがユキを抱き寄せてそう言った。

ユキは何も言わずにただ首を横に振った。

長くいればいるほどユキはシンのことを好きになって離れられなくなってしまう。

それでも最後だと思うとユキもなかなかシンの手を放すことが出来なかった。

シンは出来るだけ長くそれが終わらないように
ゆっくりと時間をかけてもう一度ユキの身体を愛した。

「シンくん…ごめんね…」

ユキが涙を流してシンは辛くなった。

心は穴が空いたように淋しいのに身体は反比例するかのように熱いままで離れ難くてただ切なかった。

「ユキさん…いかないで。
まだいかないでよ。」

シンも思わず涙声になった。
縋って何とかなるものならどんなにカッコ悪くても構わないと思った。

「ユキさんとこのまま…繋がってたい。」

シンはユキを強く抱きしめたが、終わりの時は近づいていた。

「…私のことは早く忘れて。」
ユキがそう言ってシンは泣いた。

時は容赦なく流れていく。

お互いの身体をしばらく抱きしめあって、そして泣きながらゆっくりと離れていく。

シンはもう一度ユキを抱き寄せたが
ユキはもう抜け殻みたいで気持ちが離れていくのを感じた。

「最後に朝ごはん一緒に食べましょう。

それで私たちの旅はおしまい。」

目を真っ赤にしたシンの髪をユキが優しく撫でた。

「せめて連絡先教えて。」

シンはそう言ったけどユキはまた首を横に振った。

「もう泣かないで。笑顔で別れるの。
この数日、楽しいことばっかりだったじゃない。」

シンは鼻水を啜り、何度も涙を拭っている。

そしてユキはシンと最後のキスを交わした。

「ユキさん、俺のこと忘れないで。

全身で俺のこと覚えてて。
寂しくなったら俺のところに来て。」

ユキがただ悲しく微笑んで
シンはもうこれ以上、何を言っても引き止めることは出来ないと悟った。

ユキはシンが連絡先を渡そうとするとそれも拒んで、呼び合った名前以外何も知らないまま離れようと言った。

2人は最後に一緒に笑顔で食事をした後、
空港まで一緒に行き、握手をして別れた。

シンはいつまでもユキを見送っていた。

ユキはシンの姿が見えなくなると
空港の椅子に座って泣いた。

そしてシンも旅を終えることにした。

ユキの居ない北海道は今のシンには辛過ぎた。

身辺整理をしてまた再び気持ちの整理がついたらここに来ようと誓った。

シンは帰りの飛行機の中で周りの人が引くくらい人目も気にせず泣いた。

そしてユキはハジメの待つ家に戻った。





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