The holiday romance
美味しい食事
「本当に何食べても美味しい。」

ユキの喜ぶ顔を見てシンも嬉しくなった。

「1人じゃこんなに楽しく飲めなかったです。
ユキさんに逢えて良かった。」

それはユキも同じだった。

「私もシンくんに逢えて良かった。」

そして2人は夜遅くまで飲んで別れの時がやってくる。

離れ難くてホテルまで送るとシンが言った。

ユキは申し訳なくて断ったが
シンは大丈夫だとタクシーを探している。

「シンくんはどこら辺のホテルに泊まってるの?」

「え?あー、実はまだこれから探すんです。」

「今から探すの!?」

お嬢様育ちのユキにはこんな時間まで泊まるところが決まっていないなんて考えられない事で
そんなシンの大胆さにビックリしてしまう。

「これから見つけるって大丈夫なの?」

「ユキさんと同じホテルに部屋空いてるか聞いてみます。」

シンはやっとタクシーを捕まえてユキのホテルの前までやってきた。

そこは見るからに高級なホテルでシンには完全に予算オーバーだった。

「今日はありがとうございました。」

ユキがシンに別れの挨拶をすると
シンは思わずユキの手を取った。

「あの…明日も一緒に回りませんか?」

そんなシンの申し出を嬉しく思うが
ユキは同じ場所に長く滞在出来ない理由がある。

ハジメに居場所を知られたくないのだ。

「嬉しいんだけど…私…明日は札幌を離れるんです。」

「じゃあ、俺も離れます!
どうせあてもない旅だし…
ユキさんに着いて行っても良いですか?」

シンの手は汗をかいていて
すごく勇気を出して誘ってくれてるのがわかった。

「シンくん、まずはこのホテルに部屋空いてるか確かめよう。」

「え?あー、いや…ここはちょっと俺には予算オーバーなんで違うとこ探してみます。」

ユキはこのまま放っておくのはあまりに申し訳ないと感じた。

何しろ自分の泊まっている部屋はダブルだった。

贅沢に一人でダブルベッドに寝てみたいと思ったのだ。

人数の変更をするだけで簡単に解決出来るが
ツインならまだしもダブルの部屋に泊めるとなると意味が違ってくる。

それでもシンとこのまま離れるのは寂しかった。

「シンくん、あの…私の部屋に泊まる?」

もちろんシンはその気になった。

「え?本当に?い、いいんですか?」

「別に襲おうとか思ってないよ。」

ユキは笑顔だったが実はかなり後悔している。
今更シンにそんなつもりじゃないと言っても信じないだろう。

「いや、別に襲ってもらっても…むしろウェルカムですけど…」

シンはそう言ってユキの手を握った。

シンの方は既にそういう感じに受け止めてると思ったのでユキは釘を刺すことにした。

「そういうのは無しね。」

ユキはさりげなくシンが握った手を引いた。

ユキがロビーで変更の手続きをとっている間、
シンはずっと落ち着かなかった。

(そういうのは無しって…真意なのか?
それとも照れ隠し?あー、わかんねぇ。)

こんな高級ホテルに泊まったことも無いし、
ここで初めて逢ったよく知らない女性と2人で一夜を過ごす。

これはシンにとってもかなりの冒険だった。
ユキの言葉通り何もしてはいけないのかも知れないし、誘わないのも失礼なのかもしれないなどと頭の中は高速で色々な事を考えている。

(遊んでる風には見えないし、
迫ったところで拒まれる可能性もある。

でも一緒の部屋に泊まるってそういうことだろ?)
考えたところで答えが出ないので
とにかく当たって砕けようと思った。

「シンくん、こっち。」

ユキが鍵を持ってエレベーターに乗るといきなり人の目が無くなって
シンは自分の心臓の音がユキに聞こえ出るんじゃないかと思うくらい緊張してきた。

「大丈夫?飲み過ぎちゃった?」

ユキが顔を覗き込んでシンの顔が赤くなった。

「だ、大丈夫です。
それより良いんですか?

ユキさんの部屋に泊まっても…。」

「泊めるだけだよ。
野宿とかされると困るし…

別に一緒に寝たいとか本当に思ってないから。
あ、もしかして期待してた?」

「いや、えっと…そ、そうですよね。」

たしかにユキはそんなに軽く無さそうだし、
もしかして男に免疫が無さすぎるのかも知れないとシンは一生懸命この状況を理解しようとしている。

(やっぱりダメだよな。)

「この部屋よ。入って。

ねぇ荷物それだけなの?」

シンはベッドを見て確信した。

ツインだと思っていた部屋はまさかのダブルだった。
…ということはそういうことなんだろうと腹をくくった。

「あ、はい。毎日洗濯すればなんとかなるかなぁって。
でもこの部屋で洗濯するのはまずい?」

シンは何とか冷静さを保っていたが
頭の中はもうそのことでいっぱいである。

まるでそこはシンにとって別世界だった。


< 5 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop