君が望むなら…
彼はある日私の目の前に立ち、言った。

「アネア、君はなぜ笑わないんだ…僕と目も合わせてくれないのではないか?せめて時々でいい、笑ってくれないか…」

彼は困惑の表情だった。

私が笑う必要なんてない。
偽りの仲である私たちに、屋敷の中でまでそれらしく振る舞う必要は無いのだから。

私は気持ちを抑えて無理やり笑い、そして言う。

「…これで満足ですか…?まさか貴方が、自分の妻を良いように動かしたいと思うような方だったとは、思ってもみませんでしたわ…」

きっと彼には嫌味に聞こえてしまったことだろう。
私は卑屈なところがあり、真っ直ぐにものを見られなくなるときがある。

それにしても、いきなり私に笑えだなんて…

「そんな!僕はただ…」

彼は急いでそう言い掛け、そして首を横に振った。

私は顔をしかめた。
いつもこの人は言いたいことも言わずに事を収めようとする。

…私の自覚している自分の嫌な面と、彼は同じように…

「…私は貴方のそばにいます、これから先も。しかしそれは私が死ぬまで課せられた使命のため…。私は貴方に囚われるためだけにここにいるのです。貴方はそんな私に、これ以上の鎖を掛けるおつもりなのですね…」

惨めな気分に潰されそうになり、本当に言いたいことを押し殺しながら私は更に言う。

「貴方が私を操り人形のように扱いたいということならば、従いましょう…貴方がこの屋敷の主なのだから…」
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