楽園 ~きみのいる場所~
5.リハビリ
悔しいことに、萌花の言葉は俺の心を深くえぐった。
変わりない楽との生活も空虚なものに思え、俺は食事の時以外は部屋にこもるようになった。
楽に心配をかけているのはわかっている。
だが、彼女の優しさに舞い上がって、好きだなんて告げておきながら、男として底辺の姿を晒してしまったことは、どうやっても忘れられない。立ち直れない。
そもそも、結婚してるくせに「好き」とか、バカじゃねぇ……。
一週間も引きこもっていると、動かせるようになってきていた右手の指が、また動かしにくくなってきた。だが、どうでも良かった。
彼女の服のボタンを外したいとか……。
外してどうすんだって――。
思春期の反抗期かと笑えるくらい、俺は全てに投げやりに考えていた。
この一週間。
まともに楽の顔を見ていない。
見れるはずがない。
萌花が訪れた日。
楽は俺の身体に残る萌花の痕を綺麗に拭き取ってくれた。萌花に吸い付かれ、俺に握られて、赤く縮こまってしまったモノまでも。タオル越しに彼女の手に触れられて、一瞬だけ、僅かに反応したような気がした。
気がしただけだったが。
結局は、そうなのだ。
俺がここまで自暴自棄になっているのは、楽に触れられても反応しなかったことで、自分が完全に不能だと思い知ったから。
事故で死ねば良かった、と思うほどの深い闇に取り込まれていた。
だが、俺は生きている。
毎日腹が空くし、食えば出したくなる。寝続けていれば身体は痛いし、頭もボーッとする。
一週間で、限界に達していた。
この一週間、俺が部屋に引きこもってしまわないように、楽も二階の部屋にこもっていることが多い。それでも、わざわざ彼女がいない時を見計らってリビングに出てくることに大した意味はなく、結果、お互いに自室で過ごしていた。
彼女に窮屈な思いをさせているのではと気にはなる。だが、自分からどうしていいのかもわからない。
いつ、楽に仕事を辞めたいと言われてもおかしくない状況だった。
何やってんだろうな……。
俺は暇つぶしに見ていたエロ動画を閉じ、重い体を引きずって部屋を出た。壁を支えにトイレに行く。
台所で喉を潤そうと冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出した。後ろ手に冷蔵を締めながら振り返ると、何かが動いたような気がした。
以前にも、こんなことがあった。
あの時は、俺を心配した楽がソファで寝ていた。
が、あれ以来は部屋で寝るようになったはずだ。
はず……。
気のせいであることを確認するために、声を発した。
「楽?」
「……」
返事はない。だが、いるのがわかった。
俺は電気を点けた。もぞっとソファの背から楽が顔を出す。が、すぐに隠れてしまった。
「なに、してんの?」
「……すみませ――」
「もしかして、あれからもそこで寝てたの」
「……」
「なんで? 俺が心配?」
「……」