転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました 番外編

 さすがに小一時間近くも動き回って疲れたサマラたちは、広場にベンチを見つけそこで休んだ。少しお腹も空いたのでサマラは露店で肉を撒いた薄パンを買ったが、レヴは「いらない」と首を横に振って何も口にしなかった。

「お腹空いてないの? じゃあジュース飲む? 買ってくるよ」

「いらね。俺のことは気にすんな」

 あれだけ動き回ったのに、彼は水も飲まないようだ。少し心配になったがレプラコーンも平然としているので、大丈夫なのだろう。使い魔は感覚を共有しているので主人に異変があれば、なんらかの兆候を見せる。

(お腹の空かない魔法をかけてるとか? そんなもんあるのか知んないけど。レヴってやっぱちょっと変わってるかも)

 そんなことを考えながら、サマラはマリンと半分に分け合ったパンを頬張った。
 休憩の後は、坂を上って店の建ち並ぶ道を歩いた。こちらも人は多いが、よそからの旅人ではなく帝都の住人ばかりのようで、比較的落ち着いている。それでも近くに住む子供が走り回ったり、買い物に忙しい母親たちで活気づいている。

 レヴはパン屋や菓子屋の窓を興味深げに覗いて回った。食べたくはないが、かまどから焼き立てのパンが出てくる様や、宝石のようにラッピングされた菓子は見ていて面白いようだ。レヴは食べ物が作られたり売られたりするのをあまり見たことがないようで、彼が興味を示すたび、サマラはどういうものなのかを説明してあげた。

「菓子屋って変だよな。どうせ口の中に入れて粉々にしちゃうのに、わざわざ手間かけて宝石みたいに作ってさ」

 おやつに買ったピカピカのジャムを乗せたクッキーや、カラフルな果物のコンフィズリーを見てレヴが呟く。サマラはそれを自分とマリンの口にそれぞれ入れてから、小首を傾げていった。

「見た目も大事じゃない。どんなにおいしくてもグチャグチャに汚い料理は、私は食べたいと思わないな」

「そーいうもんなのか」

 目をパチクリさせたレヴはコンフィズリーをひとつ摘まんでマジマジと眺めたが、結局それを食べることはせずサマラの口に押し込んだ。

 さらに坂を上っていくと、仕立て屋やブティックが並ぶ通りへ出た。ここは貴族やお金持ちが多いようで、道行く人の身なりもかなり洗練されている。ショーウィンドウに飾られているドレスや靴はどれも華やかで、サマラは思わず足を止めた。魔公爵令嬢のサマラの服や靴は、ここに並ぶ店のどこよりも高価で良いものだが、それはそれとして服飾を見るのが楽しいというのは女心だ。

 隣に並んでショーウィンドウをマジマジと眺めているレプラコーンは、人間の作る靴が気になるらしい。彼は靴職人なのだ。そしてなかなかショーウィンドウの前から動こうとしないふたりの後ろで、レヴとマリンが欠伸を零した。――そのときだった。
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