天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 正座をしたまま目を見開いていると、優弦さんは私の隣にそっと座り込む。
 今日は珍しくお互いの休みがかぶった日なので、引っ越しの作業を集中して進めていた。
 優弦さんは百合絵さん達と一緒に自室の本棚をずっと片付けていた様子だったけれど、一段落ついたのだろうか。
「優弦さん。作業は進みましたか?」
「いや、本の数が凄まじくて、一旦休憩だ」
「ふふ、床が抜けるほど詰まってましたもんね」
 珍しく疲れた様子の優弦さんを見て、頬が緩む。
 今までずっと気を張っていただろうから、ゆっくり休みたいだろうに……。
 家を出ると確定してからの優弦さんのスピード感はさすがで、あれよあれよという間に高級マンションをリストアップしてくれた。
 結局、私は特に希望がなかったのですべて優弦さんに任せた結果、この家と同じように中庭が美しい新築マンションに引っ越せることになった。
 一方で、戻ると決めていた雪島家の家は空き家になってしまう。まだ壊すには忍びないと嘆いたところ、管理も含めばあやが住んでくれることになった。本当にありがたい話だ。
 今日まで、目まぐるしく毎日が過ぎていたので、こうして二人でのんびり横に並ぶのはいつぶりだろう。
 私たちは同じように桜の木を見上げ、ふと目を合わせて微笑み合った。
「優弦さん……。今日まで本当にお疲れさまでした」
「何も言わずに待っていてくれてありがとう」
「いえ、私は何も……」
 否定しようとすると、肩をグッと抱き寄せられ、頬にキスをされた。
 優弦さんの唐突な愛情表現にはもう慣れたつもりでいたけれど、やっぱりまだ気恥ずかしい。
 お医者様としてただでさえ忙しい日々を送っているのに、大きなお家騒動にならないようにことを進めるには、どれだけの気力がいっただろう。
 優弦さんが用意していた資料の量は膨大で、井之頭さんと結託しながら、旦那様の過去の差別的行動や、スタッフの意見書を粛々とまとめていたらしい。
 結果として、優弦さんは親族からもスタッフからも人望を集め、院長の座に就くことになった。
 もちろん、旦那様や弟夫婦は納得いかないと大暴れしたけれど、スタッフの数々の告発を受け、次第に発言力がなくなっていき、最終的にはお義母様に宥められ、会長として病院の経営を見守っていく立場に落ち着いたというわけだ。
< 115 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop