天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
あれから、優弦さんの仕事の忙しさが増して一度も顔を合わせることは無く日々が過ぎていった。
どんな顔をして会えばいいのか全く分からなかったから、正直ほっとしている。
優弦さんに、あんなことをされるなんて……思い出すだけで胸を掻きむしりたくなる。
一方で、着物を捨ててもめげない私を見て諦めに入ったのか、女中からはとにかく無視するという扱いを受けている。目の前で声をかけても、挨拶をしてもスルー。
それでも実害はないので平和になったと思える自分は、だいぶ逞しくなっただろうか。
私物はもう二度と捨てられないように、タンスには鍵をかけ、部屋の清掃も断固拒否した。
「世莉さん、何だか疲れてらっしゃいます?」
これでしばらく持てばいいけれど……と思っていると、それが顔に出ていたようで、お客様に心配されてしまった。
私は慌てて首を横に振って、お直しを終えた着物を常連客である三枝(さえぐさ)さんに渡した。
「こちらお直し完了しました。お確かめください」
「いつもご丁寧にありがとう。大きな仕事で忙しいだろうに頼っちゃってごめんなさいね」
「とんでもございません」
三枝さんは七十代の気品溢れるおば様で、長いお付き合いがある。
近所に住んでいるので、こうして玄関前まで配達したのだ。
「少し痩せたように見えるわ。相良家に嫁いだと聞いたけれど、環境が変わると大変よね」
「三枝様……。ご心配いただきありがとうございます」
「何かあったら、いつでも来てちょうだいね」
三枝さんの優しい言葉にふいに泣いてしまいそうになったけれど、私はグッと堪えた。
このままだと甘えてしまうと思い、頭を下げてそのまま帰ろうとする。
「そういえば、相良家のお手伝いさんに新しい人が加わるのね」
「え?」
「あら、まだご存知なかった? この前、この辺りで迷ってる方がいたから声をかけたのよ。そしたら、相良さんのお宅の場所を聞かれてね。新しく女中として働く予定だと言っていたんだけど……。余計なこと言っちゃったわね」
「い、いえとんでもないです。それでは……」
新しい女中が入って来るのか……。
新人いびりをされないか心底不安だ。
でも、私は今後女中とできるだけ関わりなく過ごしていくつもりなので、あまり関係のない話だ。
余計なことを考えている暇はない。今日は仕事が割と溜まっている。
どんな顔をして会えばいいのか全く分からなかったから、正直ほっとしている。
優弦さんに、あんなことをされるなんて……思い出すだけで胸を掻きむしりたくなる。
一方で、着物を捨ててもめげない私を見て諦めに入ったのか、女中からはとにかく無視するという扱いを受けている。目の前で声をかけても、挨拶をしてもスルー。
それでも実害はないので平和になったと思える自分は、だいぶ逞しくなっただろうか。
私物はもう二度と捨てられないように、タンスには鍵をかけ、部屋の清掃も断固拒否した。
「世莉さん、何だか疲れてらっしゃいます?」
これでしばらく持てばいいけれど……と思っていると、それが顔に出ていたようで、お客様に心配されてしまった。
私は慌てて首を横に振って、お直しを終えた着物を常連客である三枝(さえぐさ)さんに渡した。
「こちらお直し完了しました。お確かめください」
「いつもご丁寧にありがとう。大きな仕事で忙しいだろうに頼っちゃってごめんなさいね」
「とんでもございません」
三枝さんは七十代の気品溢れるおば様で、長いお付き合いがある。
近所に住んでいるので、こうして玄関前まで配達したのだ。
「少し痩せたように見えるわ。相良家に嫁いだと聞いたけれど、環境が変わると大変よね」
「三枝様……。ご心配いただきありがとうございます」
「何かあったら、いつでも来てちょうだいね」
三枝さんの優しい言葉にふいに泣いてしまいそうになったけれど、私はグッと堪えた。
このままだと甘えてしまうと思い、頭を下げてそのまま帰ろうとする。
「そういえば、相良家のお手伝いさんに新しい人が加わるのね」
「え?」
「あら、まだご存知なかった? この前、この辺りで迷ってる方がいたから声をかけたのよ。そしたら、相良さんのお宅の場所を聞かれてね。新しく女中として働く予定だと言っていたんだけど……。余計なこと言っちゃったわね」
「い、いえとんでもないです。それでは……」
新しい女中が入って来るのか……。
新人いびりをされないか心底不安だ。
でも、私は今後女中とできるだけ関わりなく過ごしていくつもりなので、あまり関係のない話だ。
余計なことを考えている暇はない。今日は仕事が割と溜まっている。