天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
夏の夜の生ぬるい夜風では、火照った体は簡単には冷めなくて、彼のピアニストのように長い指が肩口に触れただけで更に熱くなっていく。
私は唇を噛み締めて、美しく涼しげな顔をしている相良優弦のことを睨みつけた。
「私は、あなたを許さない……っ、一生」
こんな屈辱、今まで一度も感じたことはない。
でも、感情とは裏腹に、体は求めてしまっている。
この男に触れてほしくてたまらないと、体が疼く。
乱れている私とは反対に、寸分の狂いもなく浴衣を着こなしている彼は、向けられた憎悪に全く動揺することなく、そっと私の髪に優しく触れた。
「……許さなくていい」
「え……?」
「それでも、俺は君を求める」
優弦さんの唇が体に触れて、ビリッと電流が流れたような感覚に陥った。
勝手に体が跳ねて、甘い痺れが脳を駆け巡っていく。
「あっ……やめ……っ」
私が暴れたせいで、彼の浴衣がはだけ、鍛えあげられた体が行燈の柔らかな光に照らされた。
濡れたように艶やかな黒髪をかきあげて、彼は私を見下ろす。
「世莉」
どうしてそんなに、優しい声で呼ぶの。
戸惑いを隠せないまま、私は優弦さんから目を逸らした。
ずっと気のない態度を取っているというのに、彼は私のことを落ち着かせるように、手にキスをしてきた。
驚き視線を戻すと、彼は想像以上に真剣な瞳で、私のことを見つめていた。
その、色気のある瞳に見つめられたら、もう何も、考えられなくなる。
抗いたいのに、抗えない。
憎しみが快楽に変わっていく自分が許せなくて、私はただ、声を押し殺した。
◯
あの夜のことを、私はずっと忘れられないでいる。
戸惑いと、屈辱と、快楽と、恨みと……色んな感情が複雑に絡みあって、爆発してしまいそうだったあの夜。
この復讐心をとっくに彼に見透かされていたことは、大きな衝撃だった。
逆を言うと、彼は祖母が運ばれたときのことを、〝恨まれても仕方ないこと〟だと認めているということだ。
何の自覚もなかったらもっと怒りがわいたはずだけれど、あんな風に受け入れられても複雑な気持ちになってしまう。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、着物の盗難事件が起きてから一カ月以上が経ち、 気づけば秋が近づいていた。
晴れ着の受注の最盛期は一旦落ち着き、個人での仕事依頼を受けることもできるようになった。
私は唇を噛み締めて、美しく涼しげな顔をしている相良優弦のことを睨みつけた。
「私は、あなたを許さない……っ、一生」
こんな屈辱、今まで一度も感じたことはない。
でも、感情とは裏腹に、体は求めてしまっている。
この男に触れてほしくてたまらないと、体が疼く。
乱れている私とは反対に、寸分の狂いもなく浴衣を着こなしている彼は、向けられた憎悪に全く動揺することなく、そっと私の髪に優しく触れた。
「……許さなくていい」
「え……?」
「それでも、俺は君を求める」
優弦さんの唇が体に触れて、ビリッと電流が流れたような感覚に陥った。
勝手に体が跳ねて、甘い痺れが脳を駆け巡っていく。
「あっ……やめ……っ」
私が暴れたせいで、彼の浴衣がはだけ、鍛えあげられた体が行燈の柔らかな光に照らされた。
濡れたように艶やかな黒髪をかきあげて、彼は私を見下ろす。
「世莉」
どうしてそんなに、優しい声で呼ぶの。
戸惑いを隠せないまま、私は優弦さんから目を逸らした。
ずっと気のない態度を取っているというのに、彼は私のことを落ち着かせるように、手にキスをしてきた。
驚き視線を戻すと、彼は想像以上に真剣な瞳で、私のことを見つめていた。
その、色気のある瞳に見つめられたら、もう何も、考えられなくなる。
抗いたいのに、抗えない。
憎しみが快楽に変わっていく自分が許せなくて、私はただ、声を押し殺した。
◯
あの夜のことを、私はずっと忘れられないでいる。
戸惑いと、屈辱と、快楽と、恨みと……色んな感情が複雑に絡みあって、爆発してしまいそうだったあの夜。
この復讐心をとっくに彼に見透かされていたことは、大きな衝撃だった。
逆を言うと、彼は祖母が運ばれたときのことを、〝恨まれても仕方ないこと〟だと認めているということだ。
何の自覚もなかったらもっと怒りがわいたはずだけれど、あんな風に受け入れられても複雑な気持ちになってしまう。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、着物の盗難事件が起きてから一カ月以上が経ち、 気づけば秋が近づいていた。
晴れ着の受注の最盛期は一旦落ち着き、個人での仕事依頼を受けることもできるようになった。