天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
 両親と祖母は激しく反対してくれていたようだけれど、家族がいなくなった今、あれよあれよと言う間に婚約が結ばれてしまった。
 ……全ては、昔に取り交わした約束だからと。
 どうしてこんなにも、相良家は雪島家と一緒になることを求めるのか。
 それは、雪島家の〝遺伝子〟が大きく関係している。
 遺伝学に長けていた相良家の先祖が、遺伝子相性が百パーセントの相手……〝運命の番〟と結ばれると、二人の間には優秀な子供が生まれるという説を発表した。
 その説は上流階級だけにまことしやかに流され、今も相良家と同じように信じ切っている家は数多くある。
 初めて聞いたときは、何てバカげた話だと思った。
 人の命に優劣をつけている時点で、吐き気がした。
 しかし、奇妙なその説を鵜呑みにしている相良家は、どんな手を使ったのかは分からないが、雪島家との遺伝子的相性が最も良いと知り、雪島家の事業を支援する代わりに、雪島家の長女は、相良家の許嫁にすることを強引に約束させたのだ。
 のちにそれは〝番の許嫁の契約〟と言われ、当時金銭的に苦しかった雪島家は、逆らうことなく約束を交わしてしまったのだとか。
 しかしその後、百年以上雪島家に長女が生まれることはなく、雪島家と相良家の関係はビジネス上だけの関係になっていった。
 そこで私が生まれたせいで、両家の関係は大きく変わってしまったのだ。
 専門資料によると、運命の番は、目が合った瞬間に一目で分かるらしい。
 鼓動が激しくなり、体温も上昇し、瞬間的に体が相手を求めてしまうと……。
 感情とは別に、体が子孫を残そうと反応してしまうのだと。
 よって、夫になる相良優弦との対面は、入籍した今日この日まで制限されていた。
 結婚前に何か不祥事があっては困るから……という言い分で、結婚する日取りも、式を挙げる日程も、完全に相良家の判断で決定された。
 結婚を迫っているのは相良家なのに、結婚相手に会うことを禁止するなんて……信じられないほど横暴なやり口だ。
 番の許嫁など関係なく相良一族はエリートばかりで、県内でも一番の大病院を経営している。
 なかでも、相良優弦は次期院長で、相当優秀な外科医らしい。
 誰もが優弦さんとの結婚を持ちかける中私が生まれ、落胆した一族は数多いと言う。
 でも、安心してほしい。この結婚はすぐに破綻する。
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