天敵御曹司は政略妻を滾る本能で愛し貫く
私がいなければ、優弦さんは自由に恋愛をして、好きな人と一緒になることができたはずなのに。
私のことを感情で好きになるなど、あり得ない話だ。
「これは決まった結婚ですから、私が優弦さんに私的な感情を抱くことはありません……っ」
声を振り絞りそう答えるも、優弦さんは全く動じていない。思い切り突き放すつもりで言ったのに。
それどころか、より一層物欲しそうな瞳で私を見つめて、両手で私の顔を包み込んできた。
「本当に? 今も世莉の感情はひとつもない?」
「え……っ」
「……よく考えて。ちゃんと俺を感じて」
ダメだ、逆らえない。その目で見つめられると、何も考えられなくなる。
圧倒的なアルファ型で、世間の関心を一挙に集めても全く動じないような男と、今、キスしてしまいそうな距離にいる。
優弦さんに触れられると、自分の体がどこか遠くに行ってしまったような気持ちになる。
「……キスしていい?」
少し掠れた声で問いかける優弦さん。
私は首を縦にも横にも振れずに、何とか目だけサッと逸らした。
けれど、すぐにぐっと顎を掴まれ上向かされる。
「いいね?」
その目で暗示をかけられるように言われたら、私に残された選択肢はひとつだった。
キスされる――そう思って、私はぎゅっと強く目を瞑った。
「え……」
しかし、唇が触れた場所は、唇ではなく額だった。
驚き目を丸くして優弦さんのことを見つめると、彼は「強引に迫りすぎたね」と切なげに目を細めた。
なぜ、そんなに優しくしたりするの。
子孫繁栄のためだけに嫁がせられ私なんか、どうでもいいと思っているはずなのに。
唇が触れた額が、ひりひりと火傷したくらい熱い。
この人が運命の番なのだという事実を、まざまざと思い知らされた夜だった。
side優弦
それは一瞬の出来事で、瞬きをしていたら見逃してしまうほどのものだった。
……まだ医大生だった二十四の頃のこと。
俺は雪島家へ、病弱な母の代わりに着物を取りに行かされたことがあった。
婚約者でまだ高校生である雪島世莉さんとは顔を合わさぬよう言われていたから、平日の昼間に受け取りに行った。
「優弦さん、ご足労わざわざありがとうございます。腰をやってしまいましてね……」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます」
雪島家の邸宅は、歴史を感じる趣のある木造建築だ。
私のことを感情で好きになるなど、あり得ない話だ。
「これは決まった結婚ですから、私が優弦さんに私的な感情を抱くことはありません……っ」
声を振り絞りそう答えるも、優弦さんは全く動じていない。思い切り突き放すつもりで言ったのに。
それどころか、より一層物欲しそうな瞳で私を見つめて、両手で私の顔を包み込んできた。
「本当に? 今も世莉の感情はひとつもない?」
「え……っ」
「……よく考えて。ちゃんと俺を感じて」
ダメだ、逆らえない。その目で見つめられると、何も考えられなくなる。
圧倒的なアルファ型で、世間の関心を一挙に集めても全く動じないような男と、今、キスしてしまいそうな距離にいる。
優弦さんに触れられると、自分の体がどこか遠くに行ってしまったような気持ちになる。
「……キスしていい?」
少し掠れた声で問いかける優弦さん。
私は首を縦にも横にも振れずに、何とか目だけサッと逸らした。
けれど、すぐにぐっと顎を掴まれ上向かされる。
「いいね?」
その目で暗示をかけられるように言われたら、私に残された選択肢はひとつだった。
キスされる――そう思って、私はぎゅっと強く目を瞑った。
「え……」
しかし、唇が触れた場所は、唇ではなく額だった。
驚き目を丸くして優弦さんのことを見つめると、彼は「強引に迫りすぎたね」と切なげに目を細めた。
なぜ、そんなに優しくしたりするの。
子孫繁栄のためだけに嫁がせられ私なんか、どうでもいいと思っているはずなのに。
唇が触れた額が、ひりひりと火傷したくらい熱い。
この人が運命の番なのだという事実を、まざまざと思い知らされた夜だった。
side優弦
それは一瞬の出来事で、瞬きをしていたら見逃してしまうほどのものだった。
……まだ医大生だった二十四の頃のこと。
俺は雪島家へ、病弱な母の代わりに着物を取りに行かされたことがあった。
婚約者でまだ高校生である雪島世莉さんとは顔を合わさぬよう言われていたから、平日の昼間に受け取りに行った。
「優弦さん、ご足労わざわざありがとうございます。腰をやってしまいましてね……」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます」
雪島家の邸宅は、歴史を感じる趣のある木造建築だ。