全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「正直なところ、私はやっぱり商品に関わる仕事をしたいんだよね。商品企画部にいたときは充実してた。それがマーケティング部に異動になって……それでもまぁ、世間の売れ筋を調査したりして、私の中ではまだギリギリ関われてる。でもデジタル推進部はまったく仕事が違うからね」

「……ですよね」


 我が社が商品化したものの中には、もう廃番になった商品も含めて、古い資料がたっぷり残っている。
 近年の商品はきちんとデータで残っているが、古い品番のものは紙の状態で保管されたままで。
 それを整理する部署が、一年前に発足されたデジタル推進部だ。


「次の部署では“部長”の肩書きみたいだから、一応は昇進なんだけどさ」

「考えすぎかもしれませんが、それって、勅使河原部長と関係あります?」

「郁海はいい勘してるね。はっきり聞いたわけじゃないけど、私もそう思った。勅使河原部長は、三十八のバツイチの女は使いづらいのかな」


 眉をひそめてムスッとする私を見て、由華さんはおかしそうに「口がとがってるわよ」となだめた。

 そりゃ、腹も立つでしょう。
 セクハラ発言した上に、反りが合わないからって異動させるなんて、職権乱用も甚だしい。やり方が卑怯だ。


「どうするんですか?」

「抵抗してはみるけど、たぶんダメだろうからね。新しい部署でがんばるしかないかな。なにごとも経験よ!」


 由華さんは本当にいつもポジティブで、辛いことがあっても、なんとかなるよと笑う人だ。心が海のように広い。
 そんな素敵な先輩だからこそ、不当な扱いは受けてほしくないと思ってしまう。

< 32 / 149 >

この作品をシェア

pagetop