全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「話があるの。時間は取らせないわ」
「それは……仕事の話? プライベート?」
「両方」
下を向いてフーッと息を吐きだした彼が、あらためて私の顔を見据えた。
「今は仕事中だ。個人的な話は……」
「仕事の時間以外には会えないじゃないの!」
声を荒らげそうになるのをぐっと堪えた。
感情的になってはいけない。冷静に、事実関係と彼の気持ちを確かめなくては。
「私の人事異動に関してだけど、あなたが指示したの?」
「……そうだ。社内での俺の醜聞を君に聞かせたくなくて」
「噂は社内にいなくても耳に入ってくるわよ。土屋さんと不倫関係なのは認めるの?」
自然に厳しい表情になっている私とは違って、小さくうなずく駿二郎には余裕が見られた。
「多少気分は害すると思っていたが、郁海がそこまで怒るとは予想外だ」
駿二郎は、私ならなんでもないようにサラリと受け流すと考えていたのかもしれない。
それは私が妻ではなく、土屋さんと同じ“不倫相手”だから。