離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「ほら、今日は重要な接待をして疲れているでしょうし、お酒も飲まれているし、これからマンションに帰るよりもここで休まれたほうが疲れも取れるかなって……」
 
 言いながら、語気がどんどん弱まっていく。
 
 俺のスーツのそでを掴みながら、困り顔でこちらを見上げた。
 
「だから、あの……」
 
 彼女はしばらく黙り込んだあと、おずおずと口を開いた。
 
「今日はここに泊まっていってください」
 
 緊張で肩を小さく震わせながらお願いされて、断れる男はいないと思う。
 
「……琴子がそう言うなら」
 
 俺の答えを聞いて、彼女の表情がぱぁっと明るくなった。
 
「よかった」
 
 ほっとしたように胸をなでおろす。
 
「今、お風呂の準備をしますね。忍さんはくつろいでいてください」
「風呂?」
 
 思わず声が上ずった。
 
 琴子はそんな俺を不思議そうな表情で見る。
 
 ここは一応俺の自宅でもあるし、今日は泊るんだから、風呂に入るのはあたり前ではあるが。いや、でも……。

 
 ついついいかがわしいことが頭をよぎる。
 
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