離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 父の視線が不安そうに陰る。
 
 私は忍さんが大好きだ。
 彼と結婚できたことを幸せだと思ってる。
 
 だけど……。
 
 なんと説明すればいいのかわからなくて「ええと……」とうつむく。
 
 すると、また吐き気がこみあげてきた。
 
「ご、ごめんなさい。ちょっと、トイレ……っ」
 
 こらえきれずトイレに駆け込む。
 
 リビングで父と千絵さんが話しているのがかすかに聞こえてきた。
 
 事情をすべて知ってしまったんだろう。
 
「琴子が妊娠……!」と父のよろこぶ声が聞こえた。
 
 けれどその直後に、「なに、離婚だと……っ!?」と地を這うような怒号が響く。
 
 私から話すつもりだったのに。
 
 とは思うものの、気持ち悪くてトイレから出られそうにない。
 
 吐きたいのに胃の中がからっぽで、頭がくらくらしてきた。
 
 そのとき、来客を知らせるチャイムが響いた。
 
 まさか……、と青ざめる。
 
「なにをしに来た」
 
 玄関から父の怒りを含んだ声がする。
 
 あんなに怒っているってことは……。
 
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