離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「守るべきもの……」
 
 呆然とつぶやいた父に、忍さんが静かにうなずいた。
 
「もちろん無責任にすべて投げ出すわけじゃない。きちんと根回しをして、私が抜けたあとも会社が回るように全力を尽くします」
「でも、君は上條不動産の創業者一族の御曹司で、ゆくゆくはトップに立つ男だろ。本当にそれでいいのか?」
「会社は創業一族や役員のためではなく、社員を幸せにし、社会に貢献するためにあります。トップはあくまで歯車のひとつでしかない」
「……そうか」
 
 父はつぶやくと、少しの間黙り込んだ。
 
 背中がわずかに震えていた。
 
 もしかしたら父は、母を看取らず選挙活動を続けた自分を後悔しているのかもしれない。
 
 本当は父もすべてを投げ出して母のそばにいたかったのかもしれない。
 
「本当に、今の発言に嘘はないんだな?」
 
 確認するように問われ、忍さんは「はい」と答える。
 
「すべてを失っても惜しくありません。身ひとつでどこに行ったとしても、必ず琴子さんを幸せにします」
 
 忍さんの言葉には、覚悟と自信があった。
 
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