離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そう願いながらも、これが一日限りの夢だってこともちゃんとわかっていた。
 
 デートが終わり家に帰れば、私は今まで通りまじめでおりこうな一ノ瀬琴子として生きていく。
 
 そして、顔も知らない年上の男の人と、愛のない結婚をしなければならないんだ。
 
 どうしようもない悲しさとむなしさが押し寄せ、たまらない気持ちになる。
 
 一度冒険をしてデートを楽しめれば、それで満足できると思っていたのに。私はなんてわがままなんだろう。
 
 ゆっくりと唇が離れ、忍さんが私の顔をのぞきこむ。
 
「満足したか?」
 
 静かに問われ、泣きそうになりながら首を横に振った。
 
「もっと……」
 
 もっとキスしてほしい。
 ぎゅって抱きしめてほしい。
 ずっとずっと離さないでいてほしい。
 
 そんなわがまま、叶うはずがないってわかっているけど。
 
 それでも願わずにはいられなかった。
 
「どうした?」
 
 私の異変に気づいた忍さんが表情を曇らせる。
 
 私を心配してくれているんだろう。
 
 そんな優しい彼に、私は両手で抱きついた。
 
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